小説

『ゆみこと柱神さま』はやくもよいち(『天道さん金の鎖』)

いっせいに打ち上げられた花火の音よりも大きな声のせいで、おじいちゃんの家は地震が起きたのかというほど、ゆれました。

「だまされた、だまされた。ふはははは」

お面の口から吹き出す炎は、龍のように部屋中をのたくります。
神さまと一緒になっておなかをかかえて笑いながら、ゆみこはとても心配になりました。

「柱神さま、家が燃えちゃう。それに化け物に聞こえちゃうよ」

ゆみこが心配したとおり、オドロゲは柱神さまの声を聞きつけました。
七歳の女の子にまんまとだまされ、笑い物にされたので、化け物は頭にきています。

「ゆるさんぞ、食ってやる」

おそろしい速さで舞い戻って来たオドロゲは、ゆみこの後ろから、おおいかぶさるように襲いかかりました。

おもいっきり口を開いた化け物が、一口で頭を食いちぎろうとしたそのとき、ゆみこはくるりとふり向きました。

その顔にはまだ、柱神さまの面がかかっています。

「発!」

口から吹き出した青白い炎に焼かれ、オドロゲは声を出すひまもなく、灰も残さずに燃えつきてしまいました。

柱神さまは何事もなかったかのように、大きく口を開けて笑い出します。
ゆみこもお面と一緒に、あごが外れるほど口を開いて笑いました。

おじいちゃんが帰ってきた時、ゆみこは掘りごたつの横で丸くなって眠っていました。
柱神さまと一緒に笑いすぎて、つかれきってしまったのです。

やさしく肩をゆすられて、ゆみこは目をさましました。
顔を上げると、穴の向こうからのぞき込むおじいちゃんの顔が見えました。

「なんじゃ、ゆみこ。柱神さまの面であそんでおったのか」

眉間にしわを寄せて、おじいちゃんが聞いてきます。
ゆみこはあわてて、かぶったままのお面を取ろうと手を伸ばしました。

ところが柱神さまは顔にくっついて、指を入れるすきまもありません。
ゆみこは顔にそって手を動かしましたが、木彫りの面のしわや、指でくりぬいたような目の穴にふれるだけです。

「神さま。ねえ、柱神さま」

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