小説

『信じた僕がバカだった』広瀬厚氏【「20」にまつわる物語】

 心配も何も、将来は人類が滅亡するんだから勉強を頑張ったところでどうにもならないんだ。だけどそんなことを僕は、親にも誰にも言う気はない。言ったところでどうしようもないから。人類最後の日まで、ただなんとなく生きていくだけだ。
 中学受験に失敗した。お父さんとお母さんは、すごく落胆した。僕は目に涙を浮かべ、落ち込むふりはしたけれど、実際のところ受かっても落ちても、まったくどうでもよかった。
 中学生になった僕に反抗心が芽生えた。ある意味それまでの、どうでもいいと言った諦めの感情とちがい、それには力強いものがあった。あらゆるものが気にくわなかった。時にこの手ですべてを破壊したく願望した。ひょっとして世界人類を破滅させるのは、予言者の言っていた何ちゃら大王じゃなくして、この僕自身ではないだろか? とさえ思ったりもした。それならそれで面白い。20歳になる前に20世紀で悉くを消し去ってやるのさ! でも、どうやって? 「はぁ」と小さく僕はため息をついた。
 反抗心は芽生えたものの、弱気な僕は、親にも先生にも社会にも何処にも、ほとんど反抗などできなかった。表面的には以前と少しも変わらなかっただろう。とりあえず皆に「はい、はい」と、何時もおとなしく頭を下げた。まさかそんな僕が心のなかで、大胆にも世界を終わらす空想をしたりしてるなんて、誰も夢にも思わなかったに違いない。
 宗教団体が大変な事件を起こして世間を震撼させた。こんな僕でさえ非常にショックを覚え、テレビの報道番組に目が釘付けとなった。彼らは世界人類を救済するとかなんとか言ってるけれど、とてもそんな風には信じられない。彼らの力で僕を20歳にしてくれるのだろうか? だけど、もし、それが彼らにできたとしても、あの教祖が王になるくらいなら、20歳にならないで終わってしまったほうが、まだよっぽど増しに思えた。でも…… なんだかいろいろと分からなくなってきた。
 ほどほどの高校に入り、ほどほど勉強して卒業し、とりあえず入ることのできる大学に入った。目立たず地味に、ただなんとなくその日その日を過ごしてきた。
 1999年の7月はこれと言って何事もなく当たり前に終わった。そして8月20日、僕は20回目の誕生日を迎え20歳となった。そして普通に20世紀も終わって21世紀となった。
 20世紀で世界が終わると信じていたようで、本当は信じていなかったような、なんだったんだろうか? 結局何事も一生懸命になって取り組む事のできない、自分自身に対する言い訳を自分自身の心にしていたような気もする。だけど一生懸命になれなかった原因の一つは確かに、小学生のときに知った世界人類滅亡の予言だ。腹が立つけど仕方ない。少しでも信じた僕がバカだった。それにしても純真な子供心にあんな予言は……

 あれから既に、あと数年で20年過ぎようとしている。たとえ核戦争が起きようと、突然天地が逆さまにひっくり返ろうと、無数の星が空から降ってこようと、まったく動じることのない霊性を元来人間は具有している、と話に聞く。そうかもしれない。だけど子供の僕にそんな知識はなかったし、あったところで理解できたか分からない。ともかく20歳になる前にすべてが終わると多少なりとも信じ、20年間なげやりに適当な毎日を過ごした。結局予言通りにはならず僕は20歳になったが、それ以降もこれと言ってヤル気は起こらず、中小企業のサラリーマンとなり平々凡々な毎日を暮らしてきた。幸いに結婚でき、子供をさずかり、小さいながらも自分の家を持った。

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