小説

『キリコの審判 凶はラッキー』山田密【「20」にまつわる物語】

「試合に行く時、待ち合わせにキリコが遅れた時、待たないで先に行っちゃったよね」
 ミノリが云い始めた。
「だって私たちも遅れちゃうじゃない。結局は怒られたけどさ」
「キリコが一番観たがってた映画なのに、キリコだけ誘わなかったことがあったね」
 カナミが云う。
「それはキリコがその日、日が悪いとか云ってさ。ありえなかったじゃん」
「まあ、なんか占いによるとアンラッキーデーと云ってたけど」
「別の日だって皆行けたじゃん」
「原宿に買い物に行った時も、Tシャツ選んでるのに待たないでキリコを置き去りにしたよね」
 マホの目が私を見ていた。
「別に置き去りにしたわけじゃなくて、気が付かないで先に行っただけで、その後、ちゃんと会えたし。やっぱり今日はラッキーデーだって気にして無かったじゃない」
「キリコのスパイクが無くなったこともあったよね」
「それは自分の勘違いだって云ってたでしょ」
「試合の時、ユニホームが泥だらけで落ちてた事もあったよ」
 他にも沢山キリコのエピソードが出て、その都度私が訂正した。まるで私が虐めていたように。
 高校時代なんて自分の事で精一杯なのに、友達だからと云って一々気に掛けていられるわけが無い。
「最初は私たち皆、仲が良かったのに」
「途中からだよね」
「どうしてそんな事したんだろう」
「そんなのは、キリコが自分勝手だからじゃん。だから皆、付き合い切れないと思って離れただけの話でしょ」
 とどのつまりはそう云う事なのだ。キリコはやたらと占いに凝っていて、週刊誌の占いを見てはラッキーデーや凶だの吉に拘り、仲間の足並みを乱した。初めの頃は一緒に占いを見ては楽しんでいたが、それで日を変えたりいつも歩く道をわざわざ遠回りしたりするキリコに付き合いきれなくなったのは、私だけでは無かったはず。
「それにキリコは私たちといるより、田島と居たかったんだよ。気に入られようとして必死だったじゃん」

 部活の顧問の田島は二年目の若い男性教師だった。イケメンで生徒に人気があったが、本性を知っている部員達は馬鹿にしクズ野郎だと思っていた。田島は部活となると怒鳴ったり小突くのは日常茶飯事で時にはビンタを食らった。公立では問題になっても私立は治外法権なのか、生徒が何も云わなければ問題にならない。強い部であればあるほど体罰や今で云うパワハラは当然のようにあったが、陸上部はどの種目も県予選も通過出来ない弱小クラブだったのに、血気盛んな若い顧問は無謀にも目標をインターハイに置き、部員をしごいた。

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