小説

『キャンドル20』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

 鬱蒼とした森の闇のまんなかに、まあるく光が射している写真を見ていた。
 そのひかりのなかの輪郭のなかへと歩いてゆこうとしている、ちいさな妹と兄の背中。
 いちど見た時から、いまからそっちにゆくよっていう感じの女の子の左足の動きが、妹の更紗に似ていた。そしてその写真のなかのふたりの背中を見続けるうちに、彼らはそこから無邪気に踵を返すことはないかもしれないという、よくわからないけれど確信に似たものを感じていた。

 妹がいま、眠っている。俺のふたごの妹、更紗。
 更紗が今朝ワイドショーの合間に紹介される、カワウソのキャラクターが紹介する星占いをじっと見ていた。
「兄にぃ、今日のラッキーナンバー20だって」
 俺は、更紗がいつもチェックするこのコーナーのことは、ほんとうに無関心だったけど。かならずあいつはラッキーカラーやナンバー、グッズまでを事細かに教えてくれる。
 それでもマンションのドアを開けて、一歩足を踏み出した頃には俺はもうすっかり忘れてしまっているのだけれど。
「兄にぃは、鳥あたまだから、仕方ないけどさ」って言うのが更紗の口癖で、その口調がとにかく幸せそうだから、抗いもせずに放っていた。
「このカワウソ、うちらのうそっぽい誕生日まで知ってたのかな?」
 その日は俺たちの誕生日で。
 っていうか、誕生日っていうことになっていて。ふたりは捨て子だったから。
 教会の前になぜかアケビで編まれたカゴの中で、毛布に包まれたまま置かれていた。親だった誰かが何週間か育てた気配はあったらしい。
 その日がたまたま20日だったというだけで。
 ほんとうの誕生日なんかふたりとも知らない。
 その後、子供の授からなかった信者の夫婦ふたりにもらわれることになったけど。彼ら夫婦はいざ目の当たりにすると、俺たちを持て余していたのだろう。じぶんたちの遺伝子とは関係ない捨て子だったのにまるごと善意であなたたちを養っているという態度がいつだって透けてみえた。
 高校を卒業して更紗と俺はその家を出て、べつべつの大学に進んだ。
 更紗は偏差値のちゃんと高い大学に通っていた。ふたりは同じ部屋を借りて、家賃は折半して暮らしていた。

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