小説

『ようこそ! 二十番街へ』間詰ちひろ【「20」にまつわる物語】

 そのくらい走ったのか分からなかったけれど、ようやくトンネルを抜けた。トンネルを抜けた先には、ゴツゴツとしたおおきな岩が道の両側にそびえている。木や草はほとんど見えなくて、なんだかまだ、岩のトンネルをくぐっているようにキクコには感じられた。ほどなくしてサービスエリアの表示があり、マイクロバスは駐車場に進んでいった。その小さなサービスエリアには、キクコが乗っているマイクロバスの他には二台、車が止まっていた。車の中はよく見えないけれど、おそらく誰か乗っているのだろう。
「他にも、二十番街へ向かっている人たちがいるんだ」
 キクコはすこし、安心した。ここに到着するまで、対向車も見ないし、並走する車も見なかった。特別な場所だといっても、あんまり人気のないテーマパークはつまらなさそうだなと、心配になっていたのだ。
 キクコは「ちょっと、トイレに行きます」といって、バッグを持って車から降りた。後ろに座っているふたりは、車から降りる様子もなく、静かに座っていた。
「あのふたり、訳ありって感じだなあ……」なんとなく、下世話な想像をしながら、キクコはトイレをすませた。
 ジュースでも買おうかと自動販売機の前に立ち、悩んでいたところ、ふいにポンッと肩を叩かれた。
 キクコはあまりにもびっくりして「ギャッ」と声をあげた。振り返ると、男の子が立っていた。なんだよ、急に。……この人、知り合いだっけ? 
「なんですか? あ、ジュース? 先に買いますか?」
 キクコは、後ろに立っていた男に言った。その男はおそらくキクコよりも若い、10代中頃のように見えた。くりくりと大きな目に、薄茶色のもっさりとした髪型。どこかで会ったことあるような気もわずかにしたけれど、キクコは思い出せなかった。
「あのー、いまから二十番街に、行くんですよね……?」
男の子は、キクコに向かって、質問した。男の子は声変わりをしていないのか、かわいらしい声だった。そして、その声のなかにほんの少しだけ、隠し味としていれたひとつまみの砂糖ほどに、不安な響きが混じっていることに、キクコは気がついた。
「うん。なんか、招待されて、ちょっと興味があったから行ってみるんだよね。あなたも、行くんでしょう?」
キクコはそういって、男の子に質問した。すると、男の子はすこし眉毛をさげて、悲しそうな顔をした。
「いまさらだけど。もう、引き返せないかもしれないけど。あんまりおすすめしないよ、二十番街に行くの」
キクコはムッとして、少しだけ強い口調でこう言った。
「なんで? きみは行ったことあるの? 楽しいかどうかは、人によって違うんじゃない?」
そういうと、男の子は少しうつむいてしまった。いまにも泣き出しそうな雰囲気だった。
「ごめん! 怒ったんじゃないよ。ごめんごめん! せっかくこれから行くのにさ、行っても楽しくないみたいなこと言われちゃったから、つい。あ、ジュースでも飲む?」

1 2 3 4 5 6 7 8