小説

『ようこそ! 二十番街へ』間詰ちひろ【「20」にまつわる物語】

「おめでとうございます! 特別な貴女だけの、特別なご招待です!!」
……特別なあなた? なんのことだろう? 新手の勧誘かな?
 少し不審な気もしたけれど、ここまで来たらとりあえず読んでみようか、という気になり、キクコは手紙に書かれている文章を目で追った。
「今回、ごく一部の人だけが知っている、特別なテーマパーク『二十番街』への御招待券をお送りさせていただきます。この『二十番街』へ足を踏み入れることができるのはごくわずか。世界中のセレブであっても、予約することも叶わない、まさに幻の街。今回、特別にあなたをご招待いたします。ぜひ、この街で繰り広げられる素晴らしい体験を、御堪能ください」
……なんか、うさんくさいなあ。
 キクコは、そのカードをすぐに破って捨ててしまおうかと迷ったけれど、何となく気になり、そのまま封筒に戻した。チケットも、ついでのようにチラリと目を通してみた。「ご招待チケット」と大きく印字されているほか、なにやら、参加に対しての注意事項がゴマ粒のような小さな文字でびっしりと書かれている。読む気持ちすら起こらず、キクコはそのチケットもそのまま封筒にしまい、テーブルの上に適当に置いて、眠ってしまうことにした。

 
「ピンポーン、ピンポーン」
 ……うるっさいなぁ? いいかげん諦めて帰るよね? 普通は。
 朝から、しつこくインターフォンの音が鳴り響く。初めに呼び出し音がなった時、キクコは居留守を使おうと思った。時計をみると、まだ朝の八時前だったし、昨夜お酒を飲み過ぎたせいで、インターフォンの音が頭にガンガンと響く。別れたばかりのアイツの顔がチラリと頭をかすめたけれど、たぶんもう、家にくることなんてあり得ないのだ。勧誘にしては非常識にもほどがある。十分近く鳴り止まないインターフォンの音に、だんだんと腹が立ってきたキクコはのろのろとベッドから起き上がった。インターフォンの通話ボタンを押し、テレビモニター越しに、この非常識な相手を怒鳴りつけてやらなければ、気が済まない。
「なんですか? 朝早くから! 失礼ですよね?」
絞り出せば滴り落ちるほどに、声にたっぷりと怒りを含ませながら、キクコはモニター越しに映っている男を睨みつける。
「おはようございます。朝の早い時間、大変失礼をいたしました。わたくし、九十九企画のシカダと申します。ご覧いただきました封筒の件で、お迎えにあがらせていただきました。ご準備はまだ、お済みでないですか?」
……封筒の件? なんだっけ? キクコは起き抜けで、ウィーンウィーンと起動準備中の頭を動かしながら思い巡らせる。
「昨夜、ご覧いただきました件です。……覚えていない、と言われますと、こちらとしても困ります」
インターフォンのテレビ越しに話しているシカダという男は、きちんとした黒いスーツを身に付けている。七三にぴちっと分けた髪型と、黒ぶちの眼鏡をかけた。いかにも「真面目そうな日本人」代表、といった外見だ。ただ、その外見からは想像しにくい、少し甲高い声が、耳障りだった。

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