小説

『わがままな人体』紫水晶【「20」にまつわる物語】

「わかりますよ。でもね、あまりたくさんあると統率が取れなくなってしまいます。そうなると健人にも負担が……」
「じゃあよ、キリ良く二十ってのはどうだ? 十七じゃ何だかしっくりいかんだろ?」
「二十ですか……。今の肝臓さんの意見に異議のある方はいらっしゃいますか?」
 膵臓が不服そうな顔をしながらも「仕方ないな」と呟き、他の臓器も賛同した。
「ところで、どうやって後の三つを決めるんですか?」
「そうですね、腎臓さん。どうしたらいいでしょう?」
「プレゼンでもしたらどうですか? 自分はこんなに優れてるって」
「なるほど。いいですね。今の口さんの意見に異議は?」
 しばらく待ってみたが、特に意見は無いようだ。
「それじゃあ明日までに自分のアピールポイントを考えておいてください。では、解散」

***

「今のは……夢?」
 健人は布団に絡まったままベッドの下に倒れていた。全裸のところを見ると、どうやら梓を見送ったまま気を失っていたようだ。
 なんだか妙な夢を見てしまった。これも梓にこっぴどく振られたせいだ。健人はのっそり起き上がり、シャワーを浴びた。
 何故こんなことになったのか。健人は熱いシャワーを浴びながら考える。
 昨日、無意識に遊園地に行った時から、不思議な現象が始まった。一体自分の身体に何が起きているのだろうか。
「いや、待てよ」
 健人は先ほどの夢を思い出した。
「なんか、俺がストレスを感じないようにとかなんとか……。そういえば……」
 健人には思い当たる節があった。それは、梓との会話だ。健人は毎日あの会話に辟易していた。そして思った。耳が勝手に聞いて、口が勝手に受け答えすればいいと。まるで反射の様に、脳を介さず独自に対応してくれたらいいのにと……。
「まさか、そんなことが……」
 いくら何でもそんな話は聞いたこともない。それぞれの器官が、脳からの指令を受けずに勝手に動くなんて。それこそ人類史上始まって以来の大スクープだ。
 だがしかし、現に動いているじゃないか。自由自在に。勝手に物を食べ、勝手に喋り、勝手に歩き、勝手に梓を抱いた。
 このままいったら自分はどうなるのだろうか。
 明日になればプレゼンが終わり、選ばれし二十の器官が勝手に動き出す。健人の意思とは無関係に。そしたら、健人の人格はどうなるのだろうか?
「いや、大丈夫だ」
 ある閃きが健人の脳をよぎった。

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