小説

『20年前の君に』霧赤忍【「20」にまつわる物語】

 亜沙美は俺が告白した時に、前に男に逃げられてそれがショックで恋愛を避けていると言っていた。そのことが引っかかっている亜沙美は、親戚に協力を仰いで俺が誠実な男かどうかを判断しているのではないかと。
 そうであれば亜沙美の満足そうな顔からして、もうイタズラをされることはないだろうと思った。
 焼肉屋を出て次のデートの約束をして別れた。念には念を入れて次回も亜沙美の家に迎えに行くことにした。

 一週間後のデート当日。亜沙美の自宅からオバ美が出てきた。
 がっくりきたが会話からボロを出させるために、亜沙美と約束していたドライブデートに出かけた。
 疑う姿勢をみせると怒る可能性があるため柔らかい態度で探りを入れた。
 会話から亜沙美に四十歳の従姉がいることがわかった。
 そして、オバ美は恥ずかしげもなく言った。
「従姉は本当に綺麗な人で、私はその人に憧れているのよね」
 よくもまあ自分の口から言えたものだなと感心すら覚えた。
 夜景を見にいったが、百万ドルの夜景に目を輝かせながら、満面の笑顔のオバ美は、使い捨てカメラで景色や俺とのツーショット写真を撮っていた。
 不覚にも笑顔のオバ美にウットリしてしまった俺は、あえて仏頂面でピースサインをしてやった。

 もしかして亜沙美は俺のことが嫌いなのか……。
 自宅の風呂場で頭をよぎったが、考えられないし考えたくもないとシャンプーの泡を豪快に飛ばすようにかぶりを振った。
 俺は長期戦を見据え、気落ちせず以降のデートを重ねた。
 二カ月ほどが過ぎ、亜沙美とオバ美がデートに交互に現れることに気づいた。
 亜沙美たちも毎回、毎回よくやるなとクスッと笑ったが、ある日愕然とする事態がおこった。
 その日は、オバ美と観覧車に乗っていたのだが、街並みを眺めようとしたオバ美が、俺の側にある窓にからだを近づけた。至近距離でなびいた髪から嗅いだことのあるいい匂いがした。亜沙美と同じ匂いだった。俺の胸が早鐘を打った。
 オバ美の見た目は亜沙美が老けた印象で、血縁者だと考えれば納得ができるが、話し方や性格が亜沙美そのもので、演技をしている素振りも感じられない。
 もしかして、オバ美は亜沙美だったりして……と脳裏をよぎった。本屋で超常現象や不思議な体験談などの本を買って勉強してみた。一通り検討したがバカバカしい発想だと自嘲した。
 だが、俺が脳の病気を患っている可能性があると思った。
 自分が幻覚を見ているかもしれないと身ぶるいした。
 怖くなった俺は脳の検査をするため病院にいった。が、脳に異常はなく精神科にまわされた。そこでの診断結果は過労だった。それを聞いた俺は、過労で幻覚が見えるとは思えず、やはり亜沙美たちがシャンプーまで共有して手の込んだイタズラをやっていると思った。

 一週間後。亜沙美と連休中の過ごし方を話し合っていた。

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