小説

『The birth of the red empress』田中二三-(『赤ずきん』)

 その無情な労働力は兵力としても使われ、オオカミ達は、自らの治めるその領土を瞬く間に地図の上に広げていく。
 いくつかの村がやがて数十の街になり、いつしか国を侵され、さらに複数の国々がその統治下に置かれた。
 武によって国を広げ、知によって国を治め、技を高めることに余念のなく、さらにただただ道具のように使用される人間達によって、そのオオカミ達の統べる国はいつしか脅かすもののない大帝国になった。
 彼らオオカミ達がどうして森を捨て、そのような行動を取ったのか、彼らは黙して語ることはない。
 ある一人の少女との出会い、オオカミと少女の森の入り口での会話はただ禁忌の物語としてオオカミ達の間でだけひっそりと語り継がれていくことになる。
 そう決めた。
 …………?
 なぜ私がそれを知っているのか?
 なぜ人の村の話やオオカミとの会話など、私が語ることが出来るのか?
 おかしな事を聞く。
 もちろん、それは記憶しているからだ。
 自分のことを知らぬ愚か者など、さすがに人間の中にも居はしないだろう?
 愚かな愚かな人間の中にだって居ないだろう。
 私がかつて見捨てて切り離し、今はただ使用している人間にだって一応は脳が付いていたはずだ。
 お前にもそれは付いているよな?
 だったら少しは思考したらどうかな。
 わざわざダラダラと自分の来歴を、なんで私が語ったのか、ちゃんと、その猿よりは少しだけマシだと自慢している脳みそを使って考えてみればいい。
 …………。
 アハハハ……。
 正解だ。
 なんだ、少しは頭を使えるんじゃないか。見直したよ。
 ついでにいうと、この私の話を過去を聞いて、聞かされてさて、お前はこれからどうなるんだろうな?
 オオカミ達すら口外しないこの話を、人であるお前に話した理由が、まさかまさか分からない、なんて言わないよな? まさか。
 おっと、そうだそうだ、一つだけ良い物をお前に見せてやろう。
 これが話に出てきた、あの狩人から奪った彼の愛銃だよ。

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