小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

「ガラスの靴しか手掛かりがないのであれば、その靴をどこで手に入れたのか聞いてはどうでしょう。」
 ミギーヌの提案に、なるほどと頷く。すましてひげをこねくり回している態度はいけ好かないが、右大臣の考えは一理ある。
 ひとりめの貴族の子女が、金色の長い髪を輝かせながら、「ジパングという黄金の国で作られたもので、高貴な方々の手に巡り、最終的に我がシャルル家に授けられた次第です。」と言えば、商人の娘は大きな茶色い瞳を潤ませ、「ベニスで最も有名なガラス匠に黄金一山を支払い作らせたものです」と答える。双方、言うことがもっともらしい。
 パン屋の娘は日焼けた顔をうつ伏せがちに、「王子様の気を引こうと、半年前からガラス工房に通って、自ら作りました。」と言う。ヒダリーヌは軽く首をひねる。ミギーヌは表情を変えずに、パン娘に興味がないのか、次の女を見ている。
 みすぼらしい女は、「魔女がやってきて、ガラスの靴をくださいました。靴だけではなく、ドレスも馬車もです。」と、言う。
「馬鹿を言うな。」
ヒダリーヌは咎めたが、女は「本当です。」と食い下がる。「話になりませんな」とミギーヌに問いかけたが、右大臣の目は心なしか輝いて見えた。

 次に、舞踏会で王子となにを話したかを問うも、四人とも、「月がきれい」だとか、「踊りがうまいと言われた」とか、特徴のないことばかり言う。王子に聞いたが、案の定覚えていないとのこと。別の質問もしてみたが、これといって手掛かりになるものは浮かんでこない。
 埒が明かないと思いあぐねていると、ミギーヌが自慢のひげをぴんと立てた。
「要はガラスの靴がポイントなのです。それ以外はなんとでもでっち上げられてしまう。」
「というと?」
「忘れていった靴のもう片方を持ってきてもらいましょう。それが一番手っ取り早い。」
 悔しいが頭の回転はミギーヌの方が上であることは認めざるを得ない。
「女性諸君。直ちに、家に戻り、片割れを持って、・・」
 ヒダリーヌは威厳に満ちた声を出したが、ミギーヌが遮った。
「いや、それでは面白くない。一週間の猶予を与えましょう。一週間後に持ってくるように。いかがですが、左大臣殿?」
ヒダリーヌはこんなことに時間をかけたくなかったが、ミギーヌのアイディアなので、黙って頷いた。

 
 わずらわしいことになったわ、シンデレラは足早に家に向かう。額ににじみ出た汗をすり切れた袖で拭う。破れた靴の底から小石が入り、足の裏が痛んだ。

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