小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

 四人、残った、ガラスの靴に足が合う女が。そりゃあ、国の若い女を片っ端から集めたら、同じような足の形の女はいくらかいるだろう。やる前から分かり切っていたことだ。けれど、四人に絞られても、自分が求婚する女の顔も覚えていないとは。馬鹿な皇太子を持つと苦労する。
 左大臣のヒダリーヌは忌々しく思いながら、広間に佇む四人の若い女を見る。舞踏会に来ていくような綺麗なドレスを着た貴族の子女に、けばけばしい真っ赤なドレスを着た成金商人の娘、パン屋の娘と名乗る女と、みすぼらしい煤けた服を着た女がひとり。正直誰でも構わない。さっさとこの無駄な仕事を終わらせさえすればいい。ひとのよさだけが取り柄の王様と自分の惚れた女の顔すらわからない皇太子のおかげで、国は日に日に傾いていく。
「右大臣殿、いかがしましょうか?」
 左大臣は隣でずっと自慢のひげを撫でている右大臣のミギーヌに話を振った。『こいつは何を考えているのか、まったくわからない。よりによってこんなやつと一緒に、こんな面倒な仕事をしないといけないとは。』

 ヒダリーヌが王様に呼び出されたのはちょうど一週間前、皇太子の二十歳を祝う誕生祭で舞踏会を催した翌日だった。登城早々に呼び出されたので、嫌な予感はした。それでも、思った以上に費用がかさんだとか、高価な絵画や彫刻が壊れたとかだとは思っていた。
王様に、皇太子が舞踏会で会った女と結婚したいと言っている、名前も身元もわからず、唯一の手掛かりは残していったガラスの靴だ、と聞いたときはめまいがした。
これまでにぼんくら王子のせいでどれだけ大変な思いをしてきたことか。突然ヤギと会話ができるようになるか確かめよと、家の中で三十匹のヤギと暮らさせられたこともあれば(もちろん会話ができるはずがない。ただ大臣が動物と暮らしていると聞き、国民が動物を虐待することが減ったようだ)、空が飛びたいと言い出し国中から鳥をかき集めたこともある(試しに無数の鳥を繋いだ紐を持った罪人を崖から落としたが、空を飛ぶことはなかった。代わりに不況だった肉屋は無償で与えられた死んだ鳥を売りさばき、苦境を脱した)。
「息子にはそろそろしかるべき身分の女性との縁談をと考えていたが、その女性を自らで見つけたのであれば、わしは反対しまい。左大臣、頼まれてくれんか。」
 王様は悪い人ではないが、苦労を知らずに歳を取ったせいか、世間を知らなすぎるし、身内に甘い。
「事前に右大臣にも相談して、快諾をしてもらっておる。我が国の右腕左腕、頼むぞ。未来の王妃探しじゃ。」
 内心まっぴらごめんだが、右大臣のミギーヌは若いころからのライバル、ここで後れを取るわけにはいかない。ヒダリーヌは、「仰せのままに」と感情を押し殺し、大げさに頷いて見せた。皇太子というと、お尻を搔きながら、あくびをしていた。

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