小説

『陰ーHer shoes』柳井麻衣子(『外套』)

安貴は大変小柄で、足のサイズは22cmでも余る程であり、おまけに巻爪、外反母趾である為、合う靴を探すのもなかなか困難である。

安貴は両親を20代前半で亡くし、アパートで独り暮らしをしているがその生活はいたって健全なものとも言える。
朝は朝食を取らず、コーヒー1杯のみである。朝起きると顔を洗い、化粧は薄い眉毛を足すのみ。
黒いスーツを着て柔らかいスニーカーで歩いて職場まで行き、職場につくと黒いスーツに合わせ黒い革靴に履きかえる。

15年以上履いている革靴は、いよいよ踵が底を突き抜けようとしている。

平日毎日9時から18時まで椅子に座って事務仕事をこなす。
席から動くことはほとんどない。
毎日無駄話など一切する事なく毎日事務処理をする。
安貴は真面目だけが取り柄で、明るく楽しい人間ではないが、仕事は人並程度に出来る。
職場に意地悪な人間等はいないが、たまにはデリカシーのない人間からは家族や結婚について聞かれることもあった。それも20代後半の時までである。

あの時「ほっといてください。」の一言でも言えなかったことを安貴は少し後悔している。

働き方も生き方も多様化しているこの時代で安貴は自ら今の月給13万円の生活を変えようとはしてこなかった。別に能力がないわけではないが、安貴は自分で自分を決めつけているふしがある。

42歳になった日、朝TVを付けると北朝鮮が核ミサイルの発射実験をしたと報道されていた。明日は北朝鮮の建国記念日である。
安貴はいつものようにコーヒーを飲み、スニーカーで通勤した。

会社に着き、革靴に履きかえ安貴は大きなため息をついた。

もうこの靴は寿命を越えている。
安貴は自分の革靴を見て、「よくここまで頑張ってくれた」と靴に感謝をするのである。

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