小説

『拝啓 佐伯先輩殿』戸上右亮

《親愛なる佐伯先輩へ》
 ご無沙汰しております。二コ下代表の戸上です。早いもので、あれから二十年の時が流れました。
 二十年。
 あの年に生まれた赤子は成人式を迎え、流行はちょうど一周回り、ピュアな青年の集団だったアイドルグループが大人の事情で分裂する。信じられないことに、そんな出来事が起こり得るほどの、長い時が流れました。
 しかし、あの時購入したはずのダルマは、残念ながら未だ納品が確認できておりません。代々行われていると仰っていた「ダルマ引継ぎ」の風習も、私どもの代で途絶してしまいました。
 正直に申し上げてしまえば、ダルマなど要りません。使用済みの大きなダルマなど、所詮はただの廃棄物です。届くや否や、何のためらいもなく廃棄することでしょう。もしくは「マザーフ××カーーー!!」とハリウッド映画ばりに絶叫しながら、やや色あせた赤いボディに灯油をたっぷりふりかけ、真っ黒な炭の塊になるまで燃やし尽くすことでしょう。
 しかし、それなりの苦労を重ね、大枚を叩いて購入したものであれば、例え無用の長物であろうとも、せめて一目は見てみたい。それが人情というものではないでしょうか。
 今更ながらのお願いで大変恐縮ではございますが、ダルマの納期をお知らせ願えませんでしょうか。送付先などの詳細については以下のアドレスまでご連絡頂ければ幸いです。
daruma.okuriyagare@xxxmail.com

《関係者各位》
 貴コンテストの私的利用、大変失礼致しました。皆様のご協力に深く感謝致します。

1 2 3 4 5