小説

『チクタク誰かにチクタクと』もりまりこ

 真っ黒いカマボコ型のポストは、月に何度かねじが少しだけ緩くなる。
 その度に、少し屈んだ姿勢のまま4プラス1のねじをプラスのドライバーできつく締める。

 2年位前、新聞配達中のお兄さんがうちの前をカブで走っていた時、すっとUターンして戻ってきてくれた。ポストの修理に苦闘している寺子を見かねて声をかけてくれたことがあった。
 すべての新聞を配り終えった夕方、少し暗くなってから彼は道具一式を車に積んでやってきてくれた。
 日曜大工は趣味みたいなものですから。と、言ってくれたので寺子は好意に甘えることにしてお願いした。
 お喋りしながら、ねじをはずしたり今まであった場所から少しずらしてまた新たにねじを差し込む為の位置を決めたりしている、お兄さん。
 少し暗くなってからポストががしっと収まる場所に収まってくれた。
 びくともしない。
 素人仕事なんで、またゆるくなったら教えてくださいと言った後、無償じゃないと困りますんで、お代金はいただけないんです。じゃないと店長に叱られますからと、笑いながらあわてて寺子が手渡した缶コーヒーと共に彼は帰って行った。無償でよかったと内心思った。

 思いがけなく親切にされると、じぶんがそこにいることの理由がみつかる様な気がする。それは夜になるにはまだ早い、けれど闇にかぎりなく馴染みそうなそんな夕刻ごろのことだった。
 今は新聞もやめてしまったので、お兄さんがここに立ち寄ることもない。

 古ぼけた借家のポストの横には、表札がかかってる。
<東方治夢/寺子>と名刺サイズの厚紙に手書きで書かれたものが不器用に貼り付けられている。ピンポンはすっかりいつからか壊れてしまって鳴らない。
 ピンポンダッシュをあてにしていた小学生からも、ここ空振りじゃんってつまらなさそうに歩いてゆく声を何度も聞いたことがある。
 ウチはなんでも空振りなんだと思う。
 駆け落ちだったので実家とは縁を切られてからというもの宅急便だってどこからもやってこないから、ドアフォンなんてほとんど必要なかった。
 時々、ドアを開けてちゃんと買い物に行こうとすると、ココ人が住んでたんだねぇって驚いたような顔をされることがある。でもそんなことは寺子は気にしない。なぜって、寺子にはとびきり見栄えのする夫、治夢がいたから。
 その治夢ともしばらく離れて暮らしている。

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