小説

『隼人とヒトリ』林凛

大量の汗と寝苦しさで目が覚めた。午前7時。出勤の準備をしなければ。
それにしても暑い。パジャマは汗びっしょりだ。もう10月だというのにどうしてこんなに暑いんだろう。水を飲もう。のどが渇いた。ヒトリはひとまず布団から出て、キッチンへ向かおうとした。
立った途端、目の前の視界が歪んだ。思わず壁に手をつく。おかしい。頭がクラクラする。それにこの暑さ、熱でもあるのだろうか。
戸棚の奥に眠っていた救急箱から体温計を取り出し、熱を計ると39度。これはまずい。ベッドに横になり、頭を巡らせる。今日は進行中のプロジェクトのミーティングがある。自分がリーダーなのだから休むわけにはいかない。でもこの熱では会社に無事たどり着けるかどうかも怪しい。ミーティングも頭が回らないだろう。でも自分が休むとチームに迷惑が掛かってしまう。さんざん悩んだが、会社に行ったところで足手まといになると判断し、ミーティングは副リーダーに任せることにした。彼は責任感があり、信頼できる。ヒトリは上司と副リーダーに電話をかけた。
「部長、朝早くにすみません。今日ちょっと熱があって、会社休ませてもらえませんか。」
「おや、それは大変だ。立花、最近働きづめだったから疲れが出たんだろう。しっかり休めよ。」
「すみません。ありがとうございます。」
「いいか、家でじっとしてろよ。お前は体調悪くてもすぐ働くんだから、もっと自分の体を大切にしろ。」
「はい。ご迷惑おかけします。失礼します。」
部長はヒトリの入社時の教育係で、とてもお世話になったし、仲もいい。ヒトリの性格はお見通しのようだ。
「もしもし、井崎?朝早くに悪いな。ちょっと今日熱があって、会社休ませてもらうことにした。ミーティングあるのに申し訳ない。」
「立花さん、大丈夫ですか?かなり働きづめでしたもんね。こっちは俺に任せて、ちゃんと休んでください。」
「本当に申し訳ない。よろしくな。」
電話を終えて、ヒトリはフラフラとキッチンへ向かった。とりあえず薬を飲もう。それで寝ておけば明日には治るだろう。風邪薬を飲み、ベッドに横になるとそのまま眠りについた。

ヒトリは真っ暗な空間で浮かんでいた。まるで宇宙のような無重力空間。目の前に一つだけ白い扉があった。そこから光が漏れている。ヒトリは迷わずその扉を開いた。
扉を開けると見覚えのある部屋だった。くしゃくしゃの掛布団が敷かれたベッド、床に無造作に置かれた雑誌や服。ここは大学時代にヒトリが住んでいたアパートの部屋だ。
「隼人?」
「よう。久しぶり。」

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