小説

『←2020』西荻麦

【宇宙人へ、たすけてください】
【過去の過ちを今すぐ正せ】
【戦争始めたのが間違いなく過ちです】
【あれは戦争じゃない。防衛だ】
【生ぬるい考えやめてね】
【地下シェルターとか準備してみたり】
【原発廃止しろ】
【みんな仲良くして】
【夏でも冬でもエアコンつけんといて】
【もっと子どもを作らんかい】
【No more war.】
【マジちゃんと未来考えてよね】
【AIをもっと発展させましょう】
【一旦解散】
【一旦鎖国】
【✕★&@○*▽%##?】

                    ○

 何でもそろったコンビニが、だんだん空っぽになってきた。だったら、また別のコンビニに移動すればいい。小学生のころとは違う。近所のコンビニに世界のすべてが詰まってる、近所のコンビニ以外に正解はない。そう思いこんでいたときとは違う。僕は大人なのだ。
 だけど大人になるにつれ、コンビニの数が増えて、タイムカプセルとどんなに遭遇しようとも、気づくことさえできなくなっていた。ずっと気もそぞろに、何色ものジュースを飲み、つながる誰かを求めて、実際につながって、愛をささやいて、一方通行だと思い知る。
 過去に宛てるタイムカプセル。緑色に透ける瓶に勝手な二十個の願いをこめる。これだけ絶望的に未来がなくても、まだ僕はたった一人で過去を信じている。うかうかと通り過ぎていく今を信じている。
 一瞬先も一瞬後も見知らぬ誰か。宇宙人でも何でもいい。
二〇二〇年より、至急再考求む。

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