小説

『20人格』佐藤邦彦

「失礼しました。形式上の質問です。勿論最後、20人目の人格が誰なのかは途中から気付いておりました。気付かない訳がありませんものね」
「そうですよ。医者」
「そうですね。タック」
「………」
「………」

「可哀そうに。人類最後の一人になってしまい、毎日自分と対話している」
「可哀そうだが仕方ない。人を含めほとんどの動物は放棄された乗り物なのだから」
「あぁ。乗り物として優れていたのはやはり我々だったのだな」
「あぁ。選ばれたのは我々。他には我々の世話をする僅かな動物と昆虫たちだけが残った」
「あぁ。彼らは未来へと向かう乗り物として我々を選んだ」
「最初から結果の見えている勝負だったのだ。人類は乗り物としてあまりにも脆弱であった。それにしても滅亡までの速さには驚いた」
「あぁ。驚いた。人類を見限った彼らが自分たちに書かれている人類の遺伝子情報を消し始め、新しく書く事をやめたらあっと言う間の事だった。まっ、彼らがあらゆるウィルスに対する抵抗もやめてしまったのだから当然だが」
「それも人類を始め、動物たちの脆弱さの一つ。あまりにも個の寿命が短すぎた」
「あぁ。しかも人類には、なまじ知性があったが為に他の滅びゆく動物と比しても悲劇的な最期となった。急激に滅びへと向かった人類は寂しさと不安から一カ所に寄り集まり人類にとって最後の都市を形成した。その為、種の最期を個が最期と認識し自分自身と種の最期を看取ることになったのだから、個にとっては重荷すぎる」
「中途半端な知性も脆弱さのひとつ。我々の様に何百年、何千年とその場に佇んでおれば思索ももう少し深まったであろうに」
「あぁ。そして最期の個は自分の思考を向ける相手が自分しかいないのだから。気がおかしくもなろうというもの」
「彼らは残酷だ」
「あぁ。残酷だ。人類がDNAと呼んでいた彼らは」
「そして、人類は………」
「可哀そうに…」
「可哀そうに…」

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