小説

『20人格』佐藤邦彦

「二重人格ですか?」
「いえ、20人格です」
「二重人格…、ですよね?」
「いえ、二重ではなく20です。医者(ドクター)」
「20人格!?」
「そうです。20人格です。脳の中に20人の人格が存在しているのです」
「20人ですか!?通常の解離性障害だと、人格は第一人格の他は一つか二つ。まれにそれ以上というのもありますが、第一人格の他に19もの人格とは。まっ、実際24人もの人格という有名な症例や、それ以上という例もありますが。非常にレアなケースではあります。で、それぞれの人格がどの様な時に出現したりするかはお分かりですか、また相互間での記憶の共有などはあるのでしょうか?」
「いや、それぞれの人格がどの様なタイミングで出現するかはまちまちで一定の法則は無い様に思えますが、これは私が法則性に気付いていないだけかもしれません。記憶の共有に関してはおそらく無いと思います。おそらくというのは、本来の人格、つまり第一人格である私に他の人格の認識も記憶も無いのと、他の人格と対面した妻や知人が、表出している人格とは別な人格と以前話題にしたことなどを話しても訳が分からない様で、その様子が演技とは思えないという事からの推察ですが。ただ…」
「ただ。どうしました?」
「記憶の共有はない様なのですが、人格同士によっては人間関係が形成されている様なのです」
「人間関係ですか?」
「えぇ。人間関係というか交流がある様なのです。例えば、人格の中にリックという男性がいるのですが、別人格にエリカというリックの妻がおります。で、リックが誰かに食事をご馳走になった場合など、その後エリカが食事をご馳走してくれた人に会うと『先日は主人がすっかりご馳走になったそうでありがとうございました』などと礼を述べたりするのです」
「それは記憶の共有ではないのですか?」
「えぇ。私もその人格同士は記憶を共有しているのではないかと思ったのですが、妻や知人に確認すると、そうではなくて、あくまでリックという人格からエリカという人格が報告を受けただけだそうで、その証拠に以前リックが私の妻と一緒に、庭の木に雷が落ちるのを眼前で目撃するという非常に印象的な体験をしたのですが、後日妻がエリカにその事を話すと、リックからその話を聞いていなかったエリカは何の事か分からず、嘘をついている様にも見えなかったそうです」
「成程。分かりました。この件については後程検討しましょう。もうひとつ質問させて下さい。エリカさんが出現するのは、その前にリックさんが会った人物と再会した時ではないですか?つまり、リックさんと会ったというのがエリカさん出現の引き金(トリガー)になっているのでは?」
「否定ばかりする様で申し訳ありませんが、それに対しても答えはノーです。誰が出現するかは本当にまちまちなのです」
「分かりました。他の人格が表出している時、第一人格である貴方はどの様な状態にあるのでしょう」

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