小説

『石太郎』佐藤邦彦(『桃太郎』『竹取物語』『浦島太郎』)

 「前回までのあらすじ。
 残虐非道の鬼に苦しめられている村人達を救うため、鬼の本拠地である鬼ヶ島に向かった石太郎とその仲間に鬼の放った刺客が次々と襲い掛かるが、見事すべての刺客を打ち倒し鬼ヶ島に辿り着いた石太郎一行。鬼ヶ島ではかぐや姫の寝返り、浦島太郎の敵前逃亡、そして桃太郎が人質に捕らえられるピンチも石太郎の機転で桃太郎を救出し、鬼をも成敗したのであった。
 寝返ったかぐや姫、敵前逃亡の浦島太郎も広い心で許した石太郎。そしていよいよ感動の最終回」
 喋り終えると桃太郎と浦島太郎に向き直った石太郎が。
 「これでいいだよ。これなら問題ないだんべ」
 「大ありだ!何故俺が人質にとられるんだ」
 「人質ならまだいい!儂なぞ敵前逃亡だ」
 桃太郎、浦島太郎が抗議の声を上げていると、顔の無い女となったかぐや姫が戻ってきます。かぐや姫を見た桃太郎と浦島太郎声を揃えて。
 「あっ寝返った、裏切り女」
 「何それ?ちょっと待って顔をつけるから。はいつけました。それぞれにとって最高の美女の顔を思い浮かべてね」
 「んで、どうでしただ」
 石太郎が訊きます。
 「あんたの言う通りよ。びっくりしたわ。タイトルが石太郎何だもの。本当にこの話あんたが主人公なのね。モブが主役何て、駄作決定ね」
 かぐや姫が憎まれ口をたたきます。
 「いや、駄作どころかこれじゃ落ちもつけられん。何とか鬼は退治した事になったが、まったくしまらない」
 桃太郎が言います。
 「その通りじゃ。これでは如何ともし難い。儂が登場人物にいるからには何とか話をまとめねば」
 浦島太郎も心配します。
 「だから桃太郎セカンドシーズンにしとけば良かったんだ」
 「いいえ、かぐや姫リターンズよ」
 「いやいや、やはり浦島太郎の逆襲であろう」
 「三人とも心配することねえだで。おら、物語をうまく終わらせる魔法の言葉を知ってるだで」
 石太郎自信満々です。
 「んだがら皆自分にとっての理想のラストシーンを言えばいいだで」

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