小説

『文六と夢地蔵』甘利わたる(『みそ買い橋』)

 頭をかきかき 照れながら言う文六の姿に 大旦那も とうとう笑いをこらえきれなくなった。
「こう言っちゃぁ何だが、あんさんも正直者の上に、ばかが付くほどのんき者だねぇ!」
「はぁ・・・・・・」
「まぁ私も、あんさんの夢の事は笑えないけどね。実は私も今朝がた、おかしな夢を見たのさ』
「へっ?」
「何でも、いわんだ村に文六とかいう男がいてねぇ」
「!? 」
「そいつの畑にあるカシワの木の下に、大黒様が黄金の入ったカメを埋めてるって夢さ。でも私は文六という男が本当にいるのかどうかも知らないし、まして夢の中の話なんか真に受けるなんて、あっはっは!」
 それを聞いた文六は すぐさま空かごをかつぐと 大急ぎで 村へとすっ飛んで帰ったんじゃ。
 さてさて文六は クワ! クワ! と叫んでクワをひっつかむと いつも居眠りをするカシワの木の下へ行って クワを思い切りふってみた。えっさかほいさ。掘ってみた。
 するとどうじゃ。大きなカメが デンッと出てきてな。中から黄金色に輝く大判小判がザックザク。腰を抜かすほど驚いた文六じゃった。
「そういえば夢の中の小僧、村の地蔵様にそっくりじゃったな」
 さてもこれは地蔵様のお導きに違いないと 文六は立派なほこらを建て そこに地蔵様を安置して その後も手厚く まつったそうな。
 大判小判の使い道じゃと?
 それは人のいい文六じゃからな。
「これは村人全員への地蔵様からのお恵みじゃ」
 とて すべて村のために使ったそうな。
 それからも 文六は代わり映えしない暮らしぶりじゃったが クワをふるいつつ 幸せに暮らしたそうじゃ。

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