小説

『神、再び来たりて』十六夜博士(『ヤマタノオロチ』)

 初老の男は、その美人ちゃんに向けて、「クシナダか……丁度良い」と言うと、俺の方を振り向いた。
「私どもの娘のクシナダです。あの子を守って頂きたいのです」
 俺はすかさず目を閉じ、腕を組んだ。取り敢えず、考え事をしている振りをしたのだ。俺の頭の中は、すでにお花畑だったが、それを悟られるわけにはいかなかった。
(クシナダちゃんか……いい名前だ。守ってあげたら、きっと俺にゾッコンだろ……)
 今にも、グシシッなどと声を出して、ニタつきそうだったが、能天気で、破廉恥な思考を読まれないよう、俺は毅然と言った。
「『弱きを助け、強きを挫く』、これが神たる私の信条。お引き受け致しましょう」
 初老の男の顔に、雲間から顔を出した太陽のような笑顔が広がった。
「あっ、ありがとうございます!」初老の男は、俺の手を強く握った。
 クシナダちゃんの方を見ると、クシナダちゃんは、清楚な微笑みをたたえていた。
(めっちゃ、可愛いっ……)
 その目尻には、ダイヤのような美しい泪が光っていた。

 翌日、俺とクシナダちゃんは、森の外れの広場のような草原で、ヤマタノオロチを待った。何処にいようが、ヤマタノオロチは娘の匂いを嗅ぎつけ、現れるらしい。森の中で戦うか、草原のような広場で戦うかは思案のしどころだが、森は足場が悪く、広場の方が戦いやすいと判断した。
 暫くすると、草原に面する森の方から、ザーッ、ザーッと地響きのような音が聞こえてきた。そして、その地響きの音は、徐々に大きくなっていった。
(ヤマタノオロチか……)
 俺は、レーザーガンを構える。クシナダちゃんは、俺の背後で震えていた。
 ダァーン!!
 轟音とともに、目の前の森の木が数本倒れた。そして、倒された木の後ろから、ヤマタノオロチが姿を現わした。
(で、でけぇな……)
 ヤマタノオロチは、20メートルぐらいの大きさで、俺の想像の倍ぐらいの大きさだった。話の通り、8つの頭があり、その風貌は、俺が「こども図鑑」で昔見た恐竜そのものだった。手足はなく、蛇の化物のようだった。
 俺はすぐに狙いを付けると、レーザーガンの引金を引いた。赤い閃光が、ヤマタノオロチの頭の一つに吸い込まれる。俺は、他の頭にも赤い閃光を次々にぶち込んでいった。
 ヤマタノオロチが動きを止める。

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