小説

『婚活パーティー20の空欄』じゅんざぶろう

 先ほど入り口にいた男性従業員とは別の男性従業員がバインダーに紙を挟んで持ってきた。
「こちらのプロフィール表にご記入お願いします」
 プロフィール表にはいくつかの空欄が用意されていた。

1.名前
「立石洋介」
 太平洋のように心が広くて大きな人間になってほしいという願いを込められて、父親に付けられた平凡な名前だ。
 良いところと悪いところがある。
 悪いところは、小学校低学年で習う漢字を使えば全文字書けてしまうので、分かりやす過ぎてなかなか名前を憶えてもらえないところ。
 良いところは、名前を間違われて呼ばれることがない。今までの人生で一度も名前を間違われたことはない。

2.年齢
「36歳」
 地元の小学校、中学校、高校を卒業して、一浪して東京にある平均的な大学に入学して、今の会社に就職した。小学校3年から高校まで野球をやっていて、今でもたまに集まって呑むのは高校時代の野球部の友達だ。
 高校卒業時は、毎月集まろうなんて話していたが、徐々に回数も人数も減り、今では年に1回あるかないかになってしまった。集まったところで、周りは子どもの話や、奥さんの愚痴、自分より先を走っていく同級生にどんどん距離をあけられてしまっている。
 自分が想像していた36歳とはまったく違うが、毎年訪れるそのギャップにも慣れた。

3.職業
「サラリーマン」
 サラリーマンになろうと思ったことは一度もないが、何をしているのか聞かれた場合は、こう答えている。
 具体的な仕事内容は、会社内に置かれている飲料機器の設置や修理の仕事だ。コーヒーメーカーの調子が悪いと報告がきたときには、取引先の会社に飛んでいき急いで直す、ということを日々繰り返していると思ってもらって構わない。
 先日も3種類のお茶が出るウチの会社イチオシの機器があるのだが、ボタンを押しても動かなくて困っているという連絡を受けて、急いで向かった。機械の確認をすると、コードがコンセントから抜けていた。

 出会いはない。まず機械の修理ということで、同僚に女性がいない。正確に言うと、会社に事務のおばちゃんがいるが、もうすぐ70歳になろうかという、社長の母親だ。
 修理中や修理後にその会社の女性社員と話をする場面はあるが、連絡先を聞いたり、思わぬトラブルが起こり、恋愛に発展するなど、ドラマの中の話だ。

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