小説

『20歳の夏休み』菊谷達人

 圭華はこのときも、ひとつの逡巡もなく、背をまるめるようにして下着を腹部からおろすと、片足ずつあげて脱ぎとった。
 いっさいのものをとりさった肉体は、わずかな布切れがかもしだしていたエロスもまたきれいにぬぐい取った模様で、そこにはもっとむせるような生々しい、もはや美意識をも凌駕した、濡れた女体があるばかりだった。
 凧の言葉に、圭華はその場にしゃがみこみ、両手をつきながら後ろに上体をたおした。そして、腰をうかせるようにして膝をおおきくひろげ、ぼくの目のまえに、これまで閉ざされていた彼女のすべてをさらけだした。
「おい、なにをしてるんだ。彼女がおまちかねじゃないか!」
 ぼくもまたいつのまにか、凧の催眠術にかかっていたようで、その言葉に逆らうことなく、すみやかに衣服をぬぎすて、裸になって、圭華の開いた肉体のなかに入っていった。

 ぼくと凧、圭華の3人による、暗示の導きによる性の交わりは、それから二人がこの家から離れる2週間というもの、かたときもとぎれることなくつづけた。3人が3人とも、遮るもののなにもない川床をながれる水のように、自由に、澱むことなく欲情をもえあがらせ、すべてがおわったあとも、ひとつの軋轢をおぼえることもなく、笑顔で別れることができたのだった。彼の催眠術の成果というより、それぞれが暗示に進んで我を委ね、立場や年齢の差といった、いっさいのタブーを無視した性の悦びを、心から満喫したといったほうが的を射ているようだ。
 とはいえ、この夏休みにおこった圭華の家でのできごとは、ぼくにとっては衝撃的以外のなにものでもなかった。それがよかったかどうかなど、誰がいえるだろう。血液型占いを信じるのも否定するのも、個人の自由なのだから。

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