小説

『クリムゾンラビット』渡辺たかし(『かちかち山』)

僕の嫌いなもの。狭い空間。ガスの匂い、ほこり、縄・・・家族。
簡単に言ってしまえば、この世の全てのもの。
そんなことをボーっと考えていると、僕のおなかに強烈な打撃が入った。
九の字になって膝をつく僕。父親は固く拳を握り、眉間にしわを寄せている。その隣で母は、ただ無気力な表情で酒を飲んでいる。そして父は倒れている僕の腹にきついけりを入れる。毎日が暴力の嵐。身体中が痛いし、そこで意識を失う。もっとひどい日は、母が酒におぼれた時だ。酔いがひどくなると、ビンを投げたことがある。おかげで額にその名残が残っている。
気を失った僕。目が覚めると、体が動かない。動くどころかくねくね動くたびに手首と足首がいたくなる。暗闇の中だから、何も見えないが、身についている感覚と心拍数が教えてくれる。「お前は今閉じ込められている」。暗い部屋の向こう側から話し声が聞こえる。両親の声だけじゃない。誰かの声もする。どうやら客が来ているようだ。急いで体を上下に動かし、拘束されている両足を曲げ、そのまま伸ばした。暗闇の世界にドーンっという音が鳴り響く。何度も何度も音をとどろかせた。僕が動くたび体力は消耗していく。汗が邪魔をする。
こんなに頑張ってアピールしているのに、誰も気付こうとしない。あきらめかけた時。カチッカチ。ライターをつける音がした。カチッカチッカチッカチ。
その音が迫ってくるように聞こえる。もう後がない。殺される。目を薄く開けると、隙間から見える誰かがライターを持って音を立てていた。「誰?」顔は見えないが、おそらく女の子。いつの間にか、僕は倒れた。
気が付くと目の前の扉が開いていた。縄もほどかれている。もしかして、解放されたのか。いや、そんなことをする人たちではない。
でも、何かがおかしい。
ガタッとふすまが開き、かすかな光が、僕の顔に当たる。

「久しぶりだね。君」
僕が気を失う前に見た少女だった。
彼女の背後は真っ赤に燃えている。彼女は僕に手を差し出した。

「君は、誰だ?」
「あれ?覚えてないの?何度も助けてやったのに」
「助けた?僕を」
「もう、本当に忘れているんだね」

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