小説

『埋葬猫』山田密(『累が淵、鍋島の化け猫』)

 そりゃあまだ四十八ですからね。今でも再婚の話もあるし、実際、類が死んでから三回結婚しましたよ。何ででしょうね。皆一年も経たない内に別れました。皆突然いなくなってしまうんですよ。僕はぐうたら亭主ですからね。捨てられたんでしょう。
 最初は類が死んで翌年に再婚しました。高校の同級生で実家が農業で元々家を手伝ってましたからお誂え向きでしたね。出会いは同窓会ですよ。高校の時から私のことが好きだったらしくて、久し振りに会って何となくそのままって感じでしたね。なにしろ類がいなくなって不便していましたから。
 畑仕事も良くやってました。その頃はまだ畑が残っていましたから、手伝いを頼むのも抵抗ないから凄く楽になって私もやれやれでしたね。やっぱり婿の立場でしたから類には逆らえない所が有りましたから。こんなに楽が出来るものかと。
 明るくて良く働く女でしたね。でも、半年くらいすると何だか具合が悪いと寝込む事が多くなりまして、そこの奥の部屋で暫くは寝たり起きたりしていましたけど、スケがいると気持ちが落ち着かないとかなんとか云い出して。だからスケを捨てたんですが直ぐに戻って来ましてね。ええ、実家に帰ると云った時に離婚したので、その後の事は知りません。
 二番目の妻は飲み屋で知り合った女でどうしても結婚したいと云うので、まあいいかなと、でも畑仕事は好きじゃなくてこんな田舎でカフェをやりたいとか云いましてね。僕もカフェのオーナーになるのも悪くないと思って、その為に畑を少し売りました。それが売り始めた最初です。ここの土間を潰して建替える計画でした。
 業者選びも始まって話が本格化すると、妻はカフェをやるんだからスケは捨てろと云い出して、僕もそれもそうかなと思ってスケをここからずっと離れた山の中に捨てたんです。いつも近所に捨てても直ぐに戻るので。でも、翌朝庭先でニャアニャアいう声がして出てみるとスケが泥だらけで戻って来ていたんです。ああ、これはいくら捨てても戻ってくるから捨てても無駄だなと思いました。
 スケが戻ってくると妻の様子が変わりましてね。カフェはやらないと云い出したんですよ。でも、僕はすっかりその気になっていたもんで話を進めました。業者と話して流行りの古民家カフェにしようと思っていたんです。それならこんな片田舎でも人が来るかもしれないと思いましてね。でも、妻は奥の部屋に閉じ篭って出て来なくなった。ある日、部屋を覗いたら離婚届を置いて姿を消していました。
 三番目の妻ですが、友達がセッティングした合コンで知り合ったんですよ。今までで一番の美人でした。優しい女で何だか僕も生まれて初めて一緒にいて心が浮き立つ感じがしたものです。あれが愛してたって云うのかなあ。いや何でもありません。
 でも、結婚して暫くしたら僕を避けるようになって、夜中にうなされたり突然叫び出すようになった。初めの頃は宥めたり抱きしめたりして落ち着かせていたんですけど、毎晩ともなると僕も眠れないしうんざりして寝室を別にしました。だから夜中に出て行ったのも気が付かなかった。ある朝畑の用水路で顔を突っ伏して死んでいたんですよ。その時、最初に見つけたのがこのスケで死んでいる妻の傍で鳴いていたんです。あの時の死に顔は凄かったな。目を剥いて大きく開けた口が歪んでましてね。溺れるってあんなに苦しい顔になるんですね。美人が台無しでしたよ。何とか通夜の時までには弛緩してまあそれなりになりましたけどね。

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