小説

『埋葬猫』山田密(『累が淵、鍋島の化け猫』)

 鍋島吾郎四十八歳です。もう随分昔だから関係ありませんけど旧姓は高橋と云います。婿養子なんですよ。妻の類は一人娘だったもんですからそれで。私の実家も隣り町で農業をやっていた伝手と云いますか、男ばかり三人兄弟の三男だったもんですからそれで養子になったんです。三男なのにどうして吾郎かって、兄弟全員吾を付けたんですよ。次男は健吾で長男は昭吾。
 どうぞ立っていないで、そこの木のベンチに座って下さい。私が作ったんです。土間に置いていておくと何かと便利でしょ。何しろ大きいばかりで古い家で、でも、さすがに造りはしっかりしていますから、僕が死ぬまでこのままで良いかと思っているんですよ。
 ええ、見合いですよ。僕は大学を卒業したはいいんですが就職先が決まらなかったものですから、家の仕事を手伝っていました。でも兄も結婚して嫁が来たりして何となく家にも居辛くなりましてね。親が勧めるまま別にイヤじゃありませんでしたね。だってそれなりの財産が有るんですから。だから今でもこうして悠々自適で暮せているんです。今の僕があるのは両親と類のお陰みたいなものです。
 類と結婚した頃はこの家も、ホラそこの窓から見える向こうの山まで畑を持っていたんですよ。類が死ぬまでは農繁期はモチロン人を頼んだりもして何とか畑を作っていたんですが、類は他人が入るのを嫌いましてね。結局出来るだけ機械を入れて二人だけで畑の面倒を見ていたんです。仕事の段取りは全て類がしていましたから僕は云う通りに働いていれば良いだけでした。だから類が死んでからは畑仕事をする気にもなれませんで、畑も荒れてしまって土地も何度も切り売りして今じゃこの家と土地だけになりました。僕たちの間には子供が出来なかったですから私の代で終わっても問題ないでしょ。
 今は庭先で自分が食べる野菜だけ作ってのんびり暮らしてます。えっ? 羨ましいですか? まあ、悪くは無いですけどね。
 ハハ、よく云われます。ええ、今もそこそこモテますよ。友達にも良く云われました。お前みたいなイケメンがどうして? って。遠慮ないですよ友達だから。はっきり云って類はお世辞にも美人とは云い難く、無理をして可愛いとも云えなかった。身体はがっちりして顔もごつかった。ブスの見本みたいな女でしたね。財産目当てって云われると否定はしませんでした。その通りですからね。
 だけど気持ちは優しい女でね。よく働くし家の中もきちんとしていた。ただ、口数が少なくてあまり笑わない人付き合いも殆どしない。ブスなのを気にしていたんでしょう。こんなものかなと思えば別に僕はあまり気にならなかったですけどね。つまらない女ではありましたよ。
 イテッ、ああ大丈夫時々引っ掻くんです。この猫は類が可愛がっていた猫で、僕は元来あまり猫は好きじゃないけど何度捨てても戻って来るんで今は諦めて置いてるんです。不思議なもので懐かれると情も沸いて来る。名前はスケって云うんですよ。今時変な名前付けるのは珍しくはありませんが、このスケは類の小さい頃に死んだ兄の名前から付けたんです。タイスケって云ったかな。兄の名前、タイにしてもスケでもどっちでも同じようなもんですけどね。ゴロゴロ懐いてると思うといきなり爪を立てる。気まぐれな奴です。

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