小説

『ラプンツェルとハゲ王子』矢鳴蘭々海(『ラプンツェル』)

「しばらく休会していたんだけど、最近、また婚活を始めたのよ」
「今回は単なる相手探しではなく、仕事のためでもあるんです」と横で玉西さんが言った。
「どういうことですか?」
「僕は化粧品会社でファンデーションの開発部に所属しているのですが……」
 玉西さんの話した内容はこうだった。自分は研究職だが商品企画にも携わっている。新企画を提案したいが、恋人どころか親しい女友達もいないので女性の欲しい化粧品が思いつかない。そこでお見合い会員の女性と話をして、ヒントを得たいということだった。
「じゃあ、本気でお見合いに取り組んでるわけじゃないってことですか?」
 失礼かと思ったが、つい本音が口をついてしまった。
「もちろん良い相手がいれば真剣に交際したいですよ。でも、そんなに上手くは見つからないから、お見合いにも付加価値を探さないと。会っても縁がなければ時間の無駄です」
 ムッとした口調で彼に言い返された私は、上から目線の言い方に内心うんざりした。
「娘が変なこと言ってゴメンね。でも、そんな言い方は良くないわ」
 母が間に入って私たちをいさめ、彼は目の前に出されたお茶を飲んで一息ついた。
「そうだ!良いこと思いついた」
 母がニッコリして私たちを交互に見た。嫌な予感がした。
「あなたたち二人がお見合いしてみたら?」
「はあ!?」と同時に響く男女の声。
「玉西さん。お見合いでどの化粧品が好きとか聞く時間って、実際はあんまりないでしょ?」
「確かにそうですけど」
「だったら、うちの娘に聞けばいいじゃない?家じゃダサいけど、外で会えば別人みたいよ」
 玉西さんが私を見た。鋭い眼光が素早く全身を鑑定装置のように駆け抜ける。「う~ん」と首をかしげる彼の頭が、リビングの光を鈍く反射した。
「サンプルとして役立つか疑問の余地はありますけど、まあ、いいでしょう。先入観は研究の最大の敵ですから」
「よくそこまであからさまに言えますね」
「じゃあ、決まりってことね!娘は会員じゃないから、お見合い料はいらないわ」
「当然です。お金を払ってまで会いたいとは思いませんから」
「私まだOKしてないし!」

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