小説

『ラプンツェルとハゲ王子』矢鳴蘭々海(『ラプンツェル』)

 太陽の光が、部屋の窓に斜めから差し込んでいる。目覚まし時計を見ると、もう十三時を過ぎていた。夜更かしのせいか体がだるい。ベッドから出て洗面台に行ったら、鏡に映った自分が女幽霊に見えて一瞬ゾッとした。
(髪……長いな。やっぱり)
 自分の腰の下まで伸びた髪に軽く手を添える。真っ直ぐな漆黒の豊かな髪は、トリートメントをしなくても常につやつやと輝いていて、私の体の中で一番優秀なパーツだ。まだ27歳だから白髪とも無関係だし。同居している母から「アンタの髪のせいで部屋や風呂の掃除が大変」と愚痴られても、洗髪の時間が人の3倍以上かかっても、髪を短くするつもりは毛頭無い。「ローマは一日にしてならず、ロングは一年にしてならず」だ。
 ちょうど顔を洗い終わった時だった。玄関のドアが開いて外気の流れ込む気配と同時に、
「どうぞ上がって~」という母の甲高い声が廊下に響いた。
母は結婚相談所の仲人をしていて、よく仲人仲間のオバチャンたちを家に連れてくる。どうせ今日もいつもの「井戸端会議」だろう。そう思って私はパジャマのまま玄関に向かった。
「ええ!?」
 私は声を上げて後ずさりした。
「もう!そんな格好で出てこないで!」
シッシッと手を振る母の横には、グレーのスーツ姿の男性が立っていた。キリリとした目に細い顎、シュッとした長身、とここまでは完璧なのだが。
「あの、本当に上がってもいいんですか?」
 キラリと光る頭で一歩下がる男性。いわゆるツルッパゲで、他の全てのパーツをしのぐ輝きを放っていた。
「大丈夫!うちの娘なの。だらしなくてゴメンね」と母が取り繕うのを聞きながら、私は自室に退散した。
(あの男の人ダレ?母の恋人にしては若すぎるし……)
 考えても埒があかなかったので、部屋着に着替えるとリビングに向かった。テーブルに先程の男性が座っている。
「さっきはお見苦しい所をお見せしました」
「こちらこそ、いきなりお邪魔してすみません」
 男性が頭を下げると、形の良い頭が鈍く光った。母が間に入って説明する。
「こちらは、私が担当する会員の玉西さんよ」
 母は会員の相談に乗る面倒見の良い仲人だが、自宅に男性会員を連れてきたのは初めてだったので、少し面食らった。

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