小説

『楽園』西橋京佑(『桃太郎』)

「驚きましたか、きっとどれだけ素晴らしい世の中があるかと思っていたんでしょう?バカですね、あなたたち」
 猿がジロリと睨んでいた。
「そんなわけないですよ、だって僕たちは犯罪者なんですから。
 僕らは、ここから出られないんですよ。正確にいうと、首にチップが埋め込まれていてね、出られたとしても4時間以内に戻らなければ首から吹っ飛んでしまうんです。いくら殺人犯でも、死ぬのは嫌なんですよ。同じでしょ?
 ねえそんなことよりも、聞きますか、僕の隣の人、5人を殺してここにいるんですけど、まだまだ足りないんですって。彼はそのことを腹が減るって隠語を使うんですけど、毎晩毎晩腹が減ったと叫んでいます。アホです。
 ここのやつらは、みんなクソですね。何の目的もない、ただの虫ケラです。虫ケラは虫ケラらしく、踏みつぶされればいいのに」
「お前なんて、俺からすれば虫ケラ以下の何者でもないけどな」
 僕はイライラしていた。それがQ146の目的のような気もしたけど、妹を殺したやつを目の前にして、普通でいられるやつの方がどうかしている。
「お前、さっきくると思ってたって言ったよな。ということは、もう分かってるんだろ?覚悟、できてるんだろ?」
「覚悟?それはこちらのセリフですけどねぇ。くると思っていたと言った理由、本当にわかっていますか?あなた、どうしてここに来たのか、本当にわかっていますか?」
 Q146は、憐れむような、嘲笑するかのような、とにかく腹がたつ顔をしていた。
「僕があなた方を招いたんですよ。今日、この時間、この場所に。僕が、あなたを呼んだんです、桃井さん。今日じゃなきゃ、ダメだったんです」
「何言ってんだよ、お前」
 今日だから、ダメなの。妹が見え隠れした。
「あなたは、今日、ここで、僕を、あなたが、殺すんだ」
 Q146は、目がほとんど飛び出そうになりながら、一言一言を僕に刺すように喋った。こいつは、
「狂ってる」
 酉飼が珍しく的を得た。Q146はゲラゲラ笑っていた。
「さあ、持っているんでしょ?早く、しなよ」
 マルボロのメンソール、僕は吸い始めた。
「あなたが、僕を、それで、全てが完成するんだ。僕は、この時を、14年間待っていた。あなたを、見かけた、あの時から」
「何言ってんの本当に。うるさいから笑うなよ」

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