小説

『楽園』西橋京佑(『桃太郎』)

 それで、誰がやったんだって話になるだろ?そっからすぐに、警察が被疑者だって言って写真を4枚ぐらい見せて来た。俺は、どいつも知りもしないからこいつらみんな捕まえてくれって言ったんだ。きっと誰か犯人だし、あてずっぽでも殺してしまえと思ったからさ。そう思うでしょ?
で、すぐに警察は一人だけ捕まえた。そいつは狂っていた。魔術を使えて、人を操れる力を持っているから自分は特別なんだと。それを証明するための、適正な”行動”だったなんて言うんだ。アホか。
 それで、すぐに裁判。刑期は14年だって。おかしいよな、人殺しといて14 年だぜ。それが罪を償うことになるんだと。罪を償うってなんだよ。人殺しは罪なんかじゃない。それは、”殺人”なんだ。おかしいだろ」
 酉飼は口をパクパクして何も言えていなかった。
「それで、”楽園”にいるんじゃないかって、桃井に言ったわけ」
 猿が後を受けた。こいつは、やっぱり僕の逆を行く。
「刑期を終えて、それでもどうしようもないって警察が判断した奴らは、必然的に”楽園”に送られるんだ。そこに入れられたら、もう一生出てくることはない。こっち側の世界では、もうずっと生きられないんだ。でも、それがいいのか悪いのか、はっきり言ってわからないんだけどね」
「それでさ、14年ってもう過ぎてる、んだよね」
 犬山が悟ったように口にした。僕は恐怖からなのか笑っていた。
「だから、”楽園”に行くんだ。酉飼、鬼退治ってしちゃいけないかな?鬼は、鬼でしかないんだよ?」
 酉飼は何かを言う代わりにペットボトルを投げた。カラカラと音がして、川のようなところにやっぱり水が入っていなかったことがわかった。

 そこから結局20分ほど歩いていると、突然大きなコンクリートの壁が出てきた。こんなにも高い建物がない場所なのに、どうして気がつけなかったんだろう。ご丁寧に入り口への矢印が壁に書かれていて、そっちの方へ歩いて行くと門番が立っていた。後ろには、信じられないくらい高い門が聳え立っている。
「どう入るの?門番いるけど…」
「面会とか言えばいけるだろ。どうせ毎晩抜け出されてるぐらいなんだから、こいつらはザルだと思うけど」
 そう言う僕の直感は当たっていた。そいつの名前を出して、「面会で」とだけ言うと、門番はご丁寧に案内までしてくれた。しかも、ボディチェックなんてまるでなし。
 地上は、僕たち壁の外側の人間からすれば”無法地帯”だったから、門番は地下を通してくれた。
「なんか、思った以上にふっつーのところだね。下水道みたいなところに通されるのかと思ったけど」

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