小説

『楽園』西橋京佑(『桃太郎』)

 Q146は僕に何をしたんだろう。妹に、なにを吹き込んだんだろう。しばらく考えたけど、一番わかりやすい形で理解することにした。
あいつは、人の揺れている精神状態に強い言葉をぶつけて行動に誘導する。合気道みたいなもんだ。その行動の根は全てその人の中に最初からある。だから、ほんの少しの後押しで、簡単に動くんだ。
 妹は、人の心の中で一番でありたい、誰かに気に留めていてもらいたいと常に願っていた。それを達成するのはなんだろうか。頭がおかしいフリをすること、理不尽なことを言いまくること、そして死んでしまうこと。
 Q146はただ人を殺すことを味わってみたかった。その相手がたまたま妹で。意味なんてそこには何もなかった。反省なんてしようがない、だって悪いと思っていないから。だから鬼ヶ島にきた。それから、僕がきた。殺した奴の兄貴が来るとしたら、それは自分を殺すためだろう。鬼ヶ島に飽きていた。だったら、殺されてしまうのもいいかなと思った。執着なんてないから。ただ、それだけだったのだろう。

 監獄をすっ飛ばして、灰色の鬼ヶ島に入れられて、僕はふと我に返った。当たり前なのに、なんで気がつかなかったんだろう。
 鬼退治も、罪だった。

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