小説

『タイムマシン エピローグ2』川路真広(『タイムマシン』)

 それはとんでもない考えだと思われた。しかし矛盾はなさそうだ。物理学者のルーカス博士は、過去への飛行は「親殺しのパラドックス」を引き起こすと言った。だがこの場合、「時間旅行者」は親を殺したのではなく、自らが親となってその後の全生物を生み出したのだ。矛盾は起こらない。博士はまた、われわれはタイムマシンを作ることが出来ないのだと言った。しかし、それはあくまでも現在の科学の知見に基づいてそう言ったのだ。「時間旅行者」はそもそもこの時代の人間ではなく、未来からやって来たのだと考えれば、現在の物理学の限界にとらわれる必要はなくなる。彼は未来のどこかから時間を旅して来て、何かの理由で私たちの時代のリッチモンドに、短期間滞在していたのだ。
生命は未来のどこからか、三〇億年前の世界にもたらされたのではないか。
 そこから進化が始まり、やがて人間が地上を闊歩し、そしてついにその中のひとりが、未来のある時点から、過去へと長大な旅をする。そして彼の到着した三〇億年前の地球に最初の生命の種をもたらす――この循環は奇妙だが、パラドックスではないように思われる。

 以上が私の、『タイムマシン』に関する最後の報告と所感である。老いのたわごとと取るか、青臭い空想癖の名残りと読むか、あるいは考察に価するものと思っていただけるか、それは読者諸賢の公正な評価にゆだねるほかない……

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