小説

『不思議なたまご』広瀬厚氏(『金色の卵』)

「お父さん、原っぱで遊んでいて僕ね、こんなもの見つけたよ」
 ある晴れた日曜日の昼前、外から帰った小学三年生の良太が父親に言う。無邪気に笑うその顔は、にこにこと輝いている。手のひらのうえ、虹色をしたまあるい物を乗せている。
「どれどれ」と言って父親は、息子の手のうえに乗る不思議なものを観察する。
「何だろうね…何かのたまごみたいだけど。だとして、何のたまごかな? お父さんこんなの見るの初めてだよ」
「うん、そうだね。僕もたまごだと思うよ。だけど何のたまごかなあ? ちゃんと赤ちゃんかえるのかなあ? 」
「うーん、どうだろうね? お父さんにも分からないなあ…」
 それから良太は、子供部屋の机のうえに一番お気に入りなハンカチをたたんで置き、虹色の不思議なたまごを乗せた。机のすみにひじをついた両手のひらのうえにあごを乗せ、良太はたまごをじっと見つめた。見つめながらに頭のなか、いろいろと絵を描く。描いた絵を動かしてみる。その映像に音をつける。

 ピシッと、たまごにひびが入り、パカッと割れたそのなかから、見るも不思議なあざやかな色をしたヒナが、ぴよぴよとかえった。ビックリすることにかえったヒナは、見る見るうちに大きくなって、全身をキラキラ黄金に輝かせ、そらの彼方へ飛んでいった。

 ピシッと、たまごにひびが入り、パカッと割れたそのなかから、あか、だいだい、きい、みどり、あお、あい、むらさき、色に光る七つの玉が、ふわふわ回転しながら宙に浮かびあがり、ピカッと光った瞬間にスッと消えた。

 ピシッと、たまごにひびが入り、パカッと割れたそのなかから、小さなロボットの恐竜がシルバーメタリックのボディーを輝かせ、ガシャンガシャンと外に出てきて、ガオーッと口から七色の光線をはき出した。すると七色の光線のその先に、大きな虹の橋が掛かった。  

 ピシッと、たまごにひびが入り、パカッと割れたそのなかから…
 と、良太の空想は尽きることを知らない。でも、そのうちうとうとと、たまごを前にひじを枕に寝てしまった。
 うたた寝から良太が目をさますと、ハンカチのうえに置いた、たまごが無い。机のうえ目をくばるが見あたらない。もしかして机のしたに落ちてやしないかと、探してみるがどこにも無い。良太が寝ているあいだに、虹色の不思議なたまごは、どこかに消えてしまったようだ。

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