小説

『お園』阿礼麻亜(『葬られた秘密』)

「喜兵衛はん、邪魔するで」
「なんや、またお前かい」
「またとは何やねん。ようお越し、ぐらい言えんか」
「すまんな。まあ上がって、ゆっくりしていってんか。できたての上用持ってきたるさかいな」
この日、ひょっこり生臭がやってきたのには理由がありましたんや。お園が嫁入りしてから6年目の冬でした。上方の冬はえろう冷えますが、その年はまた格別でおました。それが体にこたえたんでっしゃろ。お園が風邪をこじらせて寝込んでる、いう噂を耳にしたから、一度見舞うたらなあかんと思うてた矢先のこと。
「喜兵衛はん、あんた、はよ行ったりや」
「お園になんぞありましたんか」
「ああ、どうもあんまり思わしゅうないみたいなんや」
「ただの風邪でっしゃろ?」
「わしもそない思うとったんやが。先日、近所で葬式があったさかい、そのついでに・・・あ、すまん。葬式のついでに、なんて言うたらあかんかったな。気にしたらあかんで。堪忍やで」
「それでどないしたんや。はよ続けんかい」
 もうお園のことが気になって仕方ありません。
「お園ちゃん、だいぶ悪いで」
「あほぬかせ。あの子は、こんまい時から、病気一つしたことがなかったんや。体だけは丈夫な質やった。それはお前も知っとるやろ」
「そやな。そやけどなあ・・・喜兵衛はん、ほんま堪忍やで。もっと景気のええ話持ってきたりたかったんやけどな」
「なんも、なんも。おおきに。よう知らせてくれなはった」
 それからは、矢も盾もたまらず、女房ともどもすぐに見舞いにいきましたんや。先方のご両親に会うのは婚儀の時と、それからやや子が産まれた時。それ以来でしたわ。通り一遍の挨拶も上の空でおました。
「あ、おとうはん。おかあはんも。わざわざおおきに」
 久し振りに見る娘のやつれた姿に、思わず目頭が熱うなりました。そやけど、本人が気落ちしたら体に触りますよって、嫁もわても笑顔を取り繕うて、
「なんやお園。起きんでもええ。横になっとれ。え?お園。どないしたんや。元気出さなあかんやないか?」
「へえ。大したことおまへん。それに、こっちのおとうはんとおかあはんには、ほんまにようしてもろうてますねん。それになあ、うちの人、ほんまに優しゅうしてくれます」
 思わず先方のご両親様やご亭主に頭を下げました。

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