小説

『お園』阿礼麻亜(『葬られた秘密』)

 この生臭坊主とわてとは、ハナ垂れ小僧の頃からの腐れ縁でしてな。ほんまの名前は伝左衛門と言います。まあ、二人して一緒によういたずらをしては、生臭の親父殿に叱れたもんでした。考えてみたら、縁とは不思議なもんでんな。こんまい時から「あほぼん」「生臭」と言い合う仲。喧嘩も人一倍やりましたけど、何かの時にはお互いに真っ先に駆けつけて助け合うてまいりました。
「ときに、お園ちゃんはおるか?」
「ああ、おるで。さっきがた部屋で縫いもんしとったで。茶でももってこさせよか」
「すまんな。実はな・・・」
 その日、生臭はお園の縁談を持ってきてくれましてな。ありがたいことですわな。これで女房から、やいのやいの言われんで済むっちゅうもんです。
「おとうはん、お茶持ってきました」
「ああ、お入り。さあさあ、ちゃんと挨拶しますねんで」
「あ、生臭のおっちゃん、ようお越しやす。」
「こりゃまたえらい挨拶やなあ。おおきにな。これはこれは。えろうべっぴんさんにならはって」
「おっちゃん言うたら、またそないなこと。いややわあ」
「お園ちゃん、あんた幾つにならはった?」
「へえ、数えで15に」
「そやったなあ。そしたらもうそろそろやな。」
「そろそろって何?」
「まあまあ、あとはあんたのお父さんと、あんじょう話を進めときます。なんも心配おまへん。このおっちゃんに任しときなはれ」
「なんや、ようわからしまへんけど。へえ、おおきに。ほんならおっちゃん、お父はん、よろしゅうに」

 
話がまとまる時には、トントン進むもんでんなあ。仕事でも縁談でもそういうもんですわ。あの生臭が縁談を持ってきた日から数えて三月目の大安吉日の日に、晴れて結納を交わしましてな。お相手は、京で一二を争うほどの染物商の跡取り息子。その大店の跡取りはんが、謡の稽古の帰りにわての店に立ち寄った時、たまたまお園を見初めはったんやとか。そんなこんなで、あっという間に祝言の日です。やがて、嫁入りして、またあっという間に時間が経って。ほんまになあ、わてがぼやーっと饅頭やら練り菓子やらこさえとる間に、お園は、娘から嫁になり、母親になりましてな。あー、なんちゅうこっちゃ。あのお園が母親でっせ。もうついていけまへん。心の準備っちゅうもんがでけてへんうちに、やや子ですは。まことに事は順調に進んでましたんやけどな・・・

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