小説

『風とやってきた娘』宮重徹三(『きつねの嫁入り』)

 ばばが言った。
「なんでそこまで・・いや、追ってみよう」
 というわけで、ある日、村を見に行くという妙の後を二人でこっそり追った。
 妙と三郎は、水車小屋の横の草原に座り足を水につけて話しておった。
 三郎が妙に向かって言った。
「なあ、妙。おらと一緒にならねえか?」
 妙は黙って下を向いた。
「なあ、おらが嫌いか?」
「そんなことねぇ。三郎さんは大好きだ!」
「じゃ、なして?」
「でも・・・」
「でもって・・何だ?」
 ずいぶん間をおいてから、妙が小さい声で言った。
「おら、人でねえ。おら、きつねだ。一緒になれねえ」
 三郎が驚いた。じじとばばも驚いた。
 ずいぶん間をおいてから、三郎が妙の肩を抱いて言った。
「妙、おらがきつねになる。そしたらいいべ」
 じじとばばは妙がきつねだということと、三郎がきつねになるという二つのことに驚いてしまい、転びそうになりながら手をつないでやっとこさ家に帰った。

 それから、何日かして、竹林から妙が顔を出して二人の前に立った。
「じい様、ばあ様、おらがきつねなこと分かったべ?」
 妙が言った。
「なんで、そう思った?」
 じじが聞いた。
「水車小屋で、三郎さんと話してたとき、大好きなじい様と、ばあ様の匂いがしたんだ。今までよくしてくれたのに隠しててすまんかったです」
 ばばが涙をこらえて聞いた。
「なんでおらたちの家に遊びにくるようになったんだ?」
「おらたち子供五匹は父様、母様と仲良く巣穴で暮らしておったんだけど、ある日、急に母様が襲って来たんだす。みんなで巣穴に戻ろうとすると、今度は父様が噛みついてきて入れてくれない。何度も何度も戻ろうとしたけど、母様と父様は決して入れてくれなかった。しかたなく、みんなばらばらになって、新しいとこへ移っていった。おらは、知らないうちに、この村にきておった。そして、竹林の間から、じい様、ばあ様と子供たちが楽しそうに遊んでおるのを見たのさ。おら、さびしかったんでじい様、ばあ様のとこさ来て遊んでもらったのさ」

1 2 3 4 5 6 7