小説

『風とやってきた娘』宮重徹三(『きつねの嫁入り』)

 三人で夜店を見て歩く。
「金魚すくい」「綿あめ」「射的」「あめ細工」・・・妙は生まれて初めて見るように喜んだ。
 神社にお参りすると、横の舞台から賑やかな囃子が聞こえてきて、妙は走っていった。
 娘たちが花笠音頭を踊っていた。
「きれいだなぁ!」
 妙が目を輝かせた。
 踊りが終わると静かになって、やがて、ドンという大きな太鼓の音に続いて肩から小太鼓を吊るした若者が右手から現れ、テケテケテケ、トコトコトントントンと演じ始めて見物は湧き立った。トコトコ、カンカンカン・・・皆の心が高ぶったとき、今度は左手から三味線を吊るした若者が加わった。ジャンジャーン、ペンペンペン、ジャンジャンジャン・・・見物は歓声をあげた。演奏が止まって静かになった。こんどは右手から横笛を吹きながら若者が現れ中央に立った。ピー!ヒュー、ヒョロー・・・心に沁みるような音が流れた。妙が体を乗り出した。笛に小太鼓、三味線の演奏が加わった。見物は興奮して拍手を送った。三人の演奏が夜空に呑まれていった。
「田村三兄弟だ」
 じじが妙に言った。
「兄弟け?」
 妙が聞く。
「そだ。太鼓は次郎、三味線は一郎、笛は三郎。村で自慢の演じ手だ」
「おら、笛が一番好きだ」
 妙の目が輝いている。
 おおきな拍手と歓声のうちに演奏が終わった。
 帰っていく見物たちの間をぬって妙は三郎の所へ向かい何か話した。
 三郎が妙に笛を貸し、妙が吹いたのが見えた。
 そのあと、二人が大笑いしたのは、きっと笛が変に鳴ったのだろう。
 その様子を見て、じじとばばは浴衣の妙と祭りに来たことをとても嬉しく思った。
 今夜の星空がいつもよりきれいに見えた。

 そのあと、畦道を歩いてゆく妙と三郎を見た者がおった。
 二人でヒメジョオンの原で並んで座っておったという者がおった。
 二人でエノコログサを相手の顔につけて、ふざけておったという者もおった。
 じじとばばは、こんな話を聞いていて、なんだか心配になってきた。
「どうりで、この頃、あまり遊びんこんもんなぁ」
 じじが、言った。
「一度、後、追ってみましょうか?」

1 2 3 4 5 6 7