小説

『風とやってきた娘』宮重徹三(『きつねの嫁入り』)

「お一つ、お一つ・・」
 右手の一つを上に飛ばして、その間に下の一つを拾い受けるから二つ。
 その二つ飛ばして、その間に下の一つを拾って一つだけ受け止める。
 くりかえし、最後に両手で拾って、下に四個落とし一つは右手の中。終わりの言葉は、
「おはらい」
 ばばが終えると、妙は驚いて目を見開いた。妙は二回失敗したが、そのあとは「お二つ」「お三つ」までできた。右手の一個を上にとばして、その間に下の一個を左手に移し前のお手玉を中指から落とす「おちりんこ」もできた。
「おはらい」
 妙が可愛い声で言ってじじとばばに笑顔を見せた。
 妙が帰ってから、じじとばばは
「めんこくて不思議な子じゃ」
 と話し合った。
 だが、もう一つ不思議なことが起きた。それは、畑のもぐらやねずみが日に日に減っていったことだ。被害が減ってじじとばばは喜んだ。

 それ以来、妙が来ると、じじは竹とんぼ、竹馬を教えてやり、ばばは折り紙、あやとりなどを教えてやった。二人は、娘ができたようでうれしかった。
 じじが子供と遊ぶのが好きなのを知って村の子たちが来ている時、妙が来ることがあった。子供たちは妙が年上なので「妙姉」と呼んで一緒にかくれんぼやおにごっこをした。
冬になっても、妙は来て、子供たちとかまくらを作ったり、雪合戦を楽しんだ。
 一度、妙の家のことを聞いたが、隣村の木村という家の子だとしか言わんかった。
 春になり、野菜の植え付けが始まった頃、妙が子供たちと一番楽しんだのは、川に笹船を浮かせ競争することだった。エゾノリュウキンカの黄色い花の間を進んで行く笹船を妙はほかの子たちと追った。
 夏になり雑草取りが忙しくなったが、夜、ばばは浴衣を作り始めた。妙に着せるためだ。
「妙、来た時より、ぐんとおっきくなりましたな」
 ばばは、嬉しそうに見ておるじじに言った。

 村の夏祭りの夜、たくさんののぼりの間を浴衣を着てうれしそうな妙とじじ、ばばが歩いていく。たくさんの人出だ。
「どこの娘だ」
 と村の人に聞かれるたび
「親戚の娘だ」
 と、じじは説明しようがなくて小さな嘘をついた。

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