小説

『続風博士』長門長閑(『風博士』坂口安吾)

 しかるに諸君、ああ諸君、おお諸君、余は娘に敗北したのである。悪略神の如しとはこれか。ああ、蟹は妖怪変化のたぐいである。誰がよく彼女の深謀遠慮を予測しうるであろう乎。
 余は負けたり矣。刀折れ矢尽きたり矣。余の力をもってして、彼女の策略に及ばざることすでに明白なり矣。貴君よ、蟹娘を葬れ! 彼女を聖なる地上より抹殺せよ! さすれば貴君は歴史にその名を残すであろう。
 それでは……諸君の健闘を祈る!
                                    敬具

                       
                鎌倉の海より愛を込めて 葉加瀬 風
愛すべき息子へ

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