小説

『ひきこもりハウス 魔法少女編』紅緒子(『注文の多い料理店』)

 やはり僕の身体機関を誰にも提供したくない。

 魔法少女ココアのアニソンをかけてなんとか自分を奮い立たせ、ネットでひきこもりハウスについて再検索する。政府が情報操作しようが、こちとらオタクは違法で情報を交換するテクニックは朝めし前だ。
 ひきこもりハウスからの自立を支援するNPOがいくつか見つかった。ひきこもりハウスを出た後は、まず生活保護をもらいながら何か働き口を探さないといけないようだ。だけど元々コミュニケーションができない駄目人間ばかりだから、挫折してひきこもりハウスに戻る奴が圧倒的なようだ。
 いくつかの団体にメールを送り問い合わせしてみる。早速NPO法人さわやか共生ネットワークから自動返信でメールが届く。

 初めまして。コーヒーマウスさん。
 私もひきこもりハウスで1年前まで暮らしていました。私の場合は王ではなく、女王を名乗る管理者の元、安穏とヲタク生活を楽しんでおりました。ですが地震があり、女王からの連絡が途絶え、ひきこもりハウスが政府による人口調整のための殺傷機関だと知りました。今や人工知能が人間の知能を抜き、人間ができる仕事は非常に限られています。不要な人間を始末し、食糧不足をも回避しようとする政府の卑劣なやり方に断固NOをつきつけましょう。
 ひきこもりハウスで支給されるカップ麺の栄養価は高いですが、化学食材ばかりで身体にどんな影響があるかわかりません。私たちは田舎で農作業をして生計を立てています。話すことが苦手な人が多いので、コミュニケーションは直接とらず、メールで行っているので安心してください。私たちは常に仲間を求めており、全国に支部が広がっています。
 コーヒーマウスさんもぜひ一度気軽にお訪ねください。またひきこもりハウスに直接伺いご説明もさせて頂きます。

 他のNPOも似たり寄ったりだった。どれもこれも問題だらけの新興宗教にしか思えない。政府御用達の人工知能である王の如く、僕をユーモアと博愛に満ちた文章で誘って救い出す力なんて、人間如きにあるわけがないのだ。
 同じようなひきこもりの連中と協力してやっていく気がまるで起きない。かといって屋上から身を投げることもできず、富士の樹海へと繰り出す行動力もない。 
 僕は三十五歳だからまだ若い。身体機関として人体実験に使うにも、難病の人を救うにもきっと重宝するだろう。親が生んでくれた五体満足な体が恨めしかった。ひきこもりハウスに勝手に僕を預けて先に死んでしまった親が許せなかった。親がだだ甘やかし子育てに失敗してできた不良品が僕だ。暗い暗いほら穴に落とされたようなこの部屋で、ネットでだけ唯一世界とつながりながら、とりあえず今日をやりすごすしか選択肢はない。

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