小説

『ひきこもりハウス 魔法少女編』紅緒子(『注文の多い料理店』)

お住まいの地域の各医療機関などからの依頼を受けて、身体機関をご提供頂きます。このため成長戦略省では、二十四時間体制でひきこもりハウスに住む皆様の身体を見守らせて頂いております。脳死、事故死、自殺、他殺、自然死など、あらゆる身体機関の停止に伴い、速やかにご遺体を回収し社会に役立たせて頂きます。
また「もう疲れた」「楽になりたい」「ひきこもりハウスで生きることをやめたい」などの理由で自殺を希望される場合は、安楽的な脳死をお勧めしております。最後に見る夢はストーリーやBGMを自由にお選び頂き、大変気持ちよく命を全う頂けます。
但し、災害などの緊急時に大量の輸血が必要な場合など、緊急を要する際は成長戦略省の担当者が安楽的なサービスで身体機関を提供頂く場合があります。

Qひきこもりハウスについてネットで調べましたがわかりませんでした。政府は情報を操作しているのではないですか?

A身体機関提供までの流れを迅速に行うため、自発的家居選択者秘密保護法によって情報の漏えいが防止されています。保護者が本人の代わりにひきこもりハウスへの入居を申し込み、当該者への告知を希望しない場合は、ひきこもりハウスについての詳細な情報を入手できないように保護しています。
また最新鋭の人工知能コンピュータを駆使して、当該者が身体機関を安楽的に提供できるよう、娯楽性の高いサービスを心がけております。情報の漏えいを防止し、国と国民の安全を確保するためにも、情報保護へのご理解とご協力をよろしくお願いします。

 ひきこもりハウスが合法だったなんて、知らなかった。高校受験に失敗してからずっと家にいて、自分が興味のあるアニメやエンタメ系のニュースしか見てこなかったらからだろうか。税金、年金、保険、銀行預金、偉い大人が考えた社会のしくみはそもそも僕のような勉強ができない奴には理解できない文章でしか書かれていないのだ。このひきこもりハウスにまつわるQ&Aを何回読んでもよくわからない。かといってネットで検索しても情報操作されているから、政府にとって不利益な情報はたぶん王と同じような人工知能を使ってすぐに消去しているのだろう。
昨日チャットをしていた十人全員が身体機関の提供という死罪になってしまった。僕はどうすればいいんだ。どうせ消える命ならば、チョコのように甘く溶けたい。だけど、この身体が見知らぬ誰かに提供されることに強姦されるような抵抗を感じてしまう。

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