小説

『ベーカリー ヘクセンハウス』鳩羽映美(『ヘンゼルとグレーテル』)

コンビニに辿りつくと、私はまず焼肉弁当とサイダーをカゴに入れた。そこから菓子パン、プリン、ポテトチップスと、どんどんカゴに放り込んでいく。
食べ物ばかりで満たされたカゴをレジ台に置いて、私は店員と目が合わないように顔を伏せた。

この半年で、私の体重は20kg増えた。
ぶよぶよと膨らんだ自分の身体が恐ろしくてたまらないのに、それでも食べることをやめられない。
自分はなんて情けないんだろう、なんて意志が弱いんだろう、なんて醜いんだろう。
そう思うのに、お腹がすいて、食べることばかり考えてしまうのだ。
私はこの先、ずっとこのままなのだろうか。そう思うたび、迷子になってしまったみたいに、大きな不安に飲み込まれる。
ここはどこなんだろう。帰りたいのに、帰れない。
……帰れない?

振り返ると、そこにはまだコンビニの明かりが見えていた。
前に向き直れば自宅まで続く見知った道が伸びていて、いつもどおりアスファストを睨みながら足早に帰れば10分もかからない。
それでも、どこにも帰れない気がした。
私はそのまま少し立ちすくんだが、ぎゅるる、と胃袋がまぬけな音を立てた。
早く、満たさなくちゃ。袋に詰まった食べ物たちを思い浮かべて、私は自宅に向かって歩き始める。
そういえば、今日はお菓子の家の夢を見た。
もしもこの道にパンくずが落ちていたら、私はそれを辿って正しい場所に帰れるのだろうか。
そんなことを思いながら歩いたが、見えるのはアスファルトとコンビニの袋と、のそのそと重たそうな自分の太い足だけだった。
やっぱり、こんな足ではどこにも行けやしないだろうな。

そんなことを考えていたら、ふわっと、香ばしい匂いが鼻先に届いた。
顔を上げると、通りを少し右に入ったところ、小さな店に明かりが灯っている。
あんな店、あっただろうか。
匂いに吸い寄せられるように、私はふらふらと、その店に向かって歩みを進めた。

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