小説

『対価』久保沙織(『人魚姫』)

 瓶のラベルには””それ相応の対価を要する“とだけ書かれていた。

「意味がわからないんだけど…」
『そんなこと言わずにさっさと飲めばいいじゃないか』
『どうせ三粒しか入っていないんだ』
『まあ良いも悪いもお前の使い方次第だよ』

 私の使い方次第———。

 意を決して一粒取り出す。
 薬を飲み込む前に老婆に一瞥くれると、焦点が合っていないままひひひっと笑われた。

 願わくば憧れの女優さんのように。みんなが振り返って拝む程、抜群に綺麗な顔にしてください。

 目を瞑りながら勢いよくゴクッと一粒飲み込んだ。が、特に何も変わった気はしない。自分の手のひらを見つめ、握ったり開いたりしてもいつもと同じ感覚だ。

『さあ契約成立だ』
『幸せになれるよう頑張りな』

 顔を上げると既に老婆はいなかった。

『お前のおかげであたしはまた生き永らえたよ』
『ひひひ』
「何それ、訳わかんないんだけど…」

 新手の詐欺?ホント時間の無駄だったわ。
 ドアを開けて表に出る。何故だか来た道を忘れてしまい、適当にほっつき歩いているといつもの通勤路に出た。
 あれ?ここに出るんだ。良かった戻ってこられて。
と思ったのも束の間、目の前にはまた女三人に男が二人。老婆に出くわす前と同じ光景が広がり、まさかの第二ラウンド再開。

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