小説

『ハッピーエンド』浴衣なべ(『わらしべ長者』)

 二人の仲がとても良さそうだったので、思わず私はそう質問してしまった。
 しばらく沈黙が続いた後、二人は同時に笑いだした。
「はっはっはっ、それはないよ片山」
「うん。ないな」
「どうしてですか? こんなに仲がいいのに」
 男女間でこれだけ打ち解けられるなんて、それはとても素敵なことだ。それとも、世間でこのような関係はよくあるもので、珍しくないのだろうか? 今まで人付き合いがあまりなかったのでよく分からない。
「仲が良すぎるからかな」
 橋本さんは山田さんの顔をまじまじと眺めながら答えてくれた。
「今の関係が長過ぎて、今さら山田のことを異性として見れない。ちょっとした親戚に近い感覚だな」
 うんうん、と山田さんが頷いている。
「橋本と付き合う自分が想像できない。それにそもそも橋本はタイプじゃないし」
「ああ、分かる」
 タイプじゃないと言われたにもかかわらず、橋本さんは腕を組んで山田さんの意見に賛同した。
「仲が良いのと好みのタイプは別問題だよな。俺も山田のような派手な外見はあまりタイプじゃない。そういう意味では、片山さんの方が断然タイプだ」
「……えっ、えっ」
 予想していなかった言葉に、分かりやすく私は動揺した。
タイプ? 私が?
 そんなはずはない。私みたいに地味な女をタイプだと言う男子が存在するわけがない。
「私なんかのどこがいいんですか?」
 私は言わずにはいられなかった。
「可愛くないし、一緒にいても面白くないし。たまたま勉強を教えられたから印象が良くなっているだけであって、冷静に考えると私なんて全然ですよ。それに」
「いや、そういうのいいから」
 山田さんが私の言葉を遮った。
「短い付き合いだけど片山の性格は分かってるつもり。外見を褒めたらきっと否定するんだろうなって思ってた。だから、そういうのはもういいよ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12