小説

『カッパのようなもの』中川マルカ(『河童』)

 再び体制を整える。乗せた身体を落とさぬように気を配る。力を入れすぎると、薄いからだを潰してしまいそうになった。崩してしまうほど、きつく握るようなことは出来ない。中身の詰まっていない小さな身体は、さして重くもないのに掴みにくく、扱いにくい。紐にでも括るか、桶のようなものにでも入れて運べば造作もないように思えたが、あいにく、僕の傍には一組の布団しかなかった。

「適当な入れ物があればいいのだが」

 すっかり、僕は目が覚めた。
 慣れない姿勢に閉口し、これは無理に背負うよりシーツに包むと良いかもしれないと閃くと、少し進んだ道を引き返し、それをまた布団の上に転がしてみる。後ろに組んでいた手を放して、布団に落とす。着物がはためき、ぱさ、と小さな音がした。横たえた拍子に、顔面に掛っていた布が外れ、僕が目を背けるより素早くはらりと落ちた白布の下には、くちゃくちゃした猿のような顔があった。

 干からびて水分を失ってしまったせいなのか、元からこういう顔つきだったのか、人間というよりちいさな動物のように思えた。
 髪は短く刈り込んであり、色の抜けた、黄味の混じる灰色のごわついた毛がみっしりと生え、しわだらけの顔はやけにくすんだ緑色をしている。その顔色に、昔、童話で読んだカッパの姿を思い出したが、指先を見ても、そこに水かきが付いているわけでもないし、甲羅や皿を携帯している風でもない。僕はその顔をまじまじと眺め、刻み込まれたしわ深さにこのカッパの通ってきた道への思いを馳せた。

 ゴミ捨て場にでも運ぼうと思っていたのだが、面布が取れて表情が明らかになると、それがたとえ人間らしい顔つきからいくらか離れていようとも、急に親しみがわき、このまま放ってしまうのが、いくらか気の毒になってきた。

 良く見れば、痩せこけた手首も、顔も、同じく干上がっていて、粉を吹いている。吹いた粉を、指先で拭ってやった。見た目に違わずざらざらと乾いて、指を這わせると、ひだになった皮膚の間にたまった汚れが落ちた。緑のちいさな顔を撫でていると、何か濡れたもので拭いてやった方が良いような気がしてきたので、自分のために用意していた林檎のジュースを、さっき落ちた面布に含ませてみることにした。

1 2 3 4