小説

『カッパのようなもの』中川マルカ(『河童』)

 あたたかい布団に、ごろりと先客があった。

 僕の眠るはずの場所にそれは居て、青みがかった白い着物に身を包む。顔には真四角の白い布が掛っていた。背丈は僕よりもうんと小さく、十歳かそこらの子供のような体つきで、とても痩せている。退けようとして手を掛けた僕は、その不確かな、紙ほどの軽さに思わず身震いをした。

 二枚重ねて袖を通してある白い着物はぐるんと巻かれた包帯にも見え、からからに乾いた姿は三角の宇宙に眠るミイラのようで気味が悪い。全体的に小ぢんまりとしているのだが、手首は僕の親指にも及ばぬ薄っぺらさだし、あたまを支えるはずの首なども実に頼りなく申し訳程度にしか存在していない。肝心のあたまも、通りの向こうの神社の猫の方が立派なくらいである。

 一体、何処からやってきたのだろう。生きているのか死んでいるのか。床に入ろうとする僕を待っていたかのように、さりげなくここにいた。しかし、あたたかな呼吸を感じられるわけでもなく、顔面にかかる布が微動だにしないところを見ても、死骸であることは確からしかった。死んだものと寝るのは、嫌だ。
 人の子か否か。骨と皮しかないような肉体は、生々しさに欠けていた。ともあれ、寝床を確保するために、僕は仕方なくこれを抱えて適当な場所に運ぶことにした。

「どうしたものかな」

 すでに、眠気はそこまで迫っている。食べ過ぎた夕食の味を反芻しながら、僕は先客との関わり方を考えた。得体の知れないものではあるが、危害を加えてくるようなことはなさそうだ。勢いに任せて、このまま横になっても良い気もしてきたのだが、やはり、然るべき場所に移すのが筋だろうと思った。

 僕は眠い目をこすり、小麦粉の入った袋でも担ぐかのようにそれを抱えて歩き出すことにした。

 はだけた着物を直してやってから、右手で胴回りを支え、小脇に抱える。片手で持つにはいくらか都合がわるく、脇に挟むにしても納まりが悪い。そこで、抱えるのは止して、背負ってみた。が、生きている身体と違って、手足をだらりと垂らしたままなの姿なので、背負うというより、ただ背中に乗せているという状態で、二、三歩進むと、ずり落ちてくる。ひっかかりがないため、全く安定しないのだ。けれども、片手で無理やり持つよりましなので、乗せたまま移動しようと思った。

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