小説

『寿限無くん』室市雅則(『寿限無』)

 きっと今の名前より短くなるんじゃないかと思うと面白かった。
 そして、お坊さんが念仏の最中に「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介」と言うのは大変だろうなと思うと愉快だった。
 タイムマシンも燃え尽きて二度と作ることはできない。
 たった一度きりのタイムトラベルは満足できるものだった。
 いつかまた誰かに挑戦してもらいたいものだ。
 そこにひ孫が出産し、玄孫が生まれたという知らせが届いた。
 幸せは幸せを呼ぶことに寿限無くんは大喜びだった。
 玄孫の父が寿限無くんに子供の名前を付けてくれるようにお願いをした。
 寿限無くんは腕を組んで考えた。
 まるで先ほど見て来た祐治のようだ。
 そして、閃いたのか顔をパッと明るくした。
 玄孫の父が尋ねた。
 「決まりましたか?」
 「決まった」
 寿限無くんはそう答えた。
 「何ですか?」と玄孫の父。
 寿限無くんは口を開いた。
 「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介五世」
 全員がずっこけた。

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