小説

『花びらを蹴散らして』柿沼雅美(『桜の森の満開の下』)

 隙き間なく敷きつめられたブルーシートの中で、真っ白のシートが浮かび上がって見えた。広すぎる公園のひときわ大きな桜の木の下で、そのシートの上には、もう丸1年会っていなかったOBやほとんどしゃべったことのない後輩の子たちが、すでに声を挙げて手を叩いて笑っていた。
 足元に脱いであった知らない会社員のスーツがフラットパンプスに絡まり、すみません、と言いながらいくつかのシートを渡った。
「あ、ひかるさぁーーーん!」
 私に気がついた後輩の美夏が立ち上がって、手に持っていた缶チューハイを振っている。
「美夏ちゃん、こぼれてるってー!」
 隣に座っていたOBが中腰になって美夏の腰を掴んだ。やだぁ先輩やらしー、と騒ぐ後輩たちに近づいていきながら、このOBの名前がケンだったかケンイチだったか分からなくて曖昧に笑った。
「ひかるさん遅いじゃないですかぁ」
 美夏はいつもと同じように甘えたような話し方で、思わず、ほんとは酔ってないでしょ? と言いたくなった。
「ひかるさん、こないだのテニス合宿にも来なかったしぃー、もう美夏寂しかったですぅ。来週末の新歓サークルの合同飲みには絶対来てくださいよぉ」
 寂しさの欠片も見えない美夏に、うんわかってる〜、と楽しそうな口調をして返すと、後輩の高橋くんが気を遣って、ビールですかチューハイにしますか、と聞いてくれた。
 私は、バッグが地面に転がらないように置き、トレンチコートを脱いだ。グレープフルーツのチューハイをもらって、プルタブを開けると、プシュゥ〜という音とともにチューハイが霧のように一瞬光った。
「ひかるさんひかるさん、これすごくないですかぁ〜」
 美夏が指さすのを見ると、ガムテープで補強された段ボールがいくつも並べられていて、上には20人以上いるサークルのメンバーのために買い込んだだろうポテトチップスやおつまみ、唐揚げなどが並んでいた。
「これ、麻衣子さんと佐奈さんが朝から場所取りして作ってくれて。ばっちりテーブルになってるんですよー、買い出しも缶重いからって健先輩と祐介先輩たちが持ってくれて、もー尊敬しちゃいます」
 それはすごいねぇ、と返すと、麻衣子が、片付けは美夏ちゃんにやってもらうから、と笑った。美夏は、はいっ、と酔っぱらった人特有の敬礼のような動きをしてへらっと笑った。
「すごい盛り上がってるっすね〜」

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