小説

『シンデレラの姉』吉田舞(『シンデレラ』)

 なんかもう、クラクラする。
 メダカにキャンディ&メロディと名づけるセンスにもクラクラするが(韻を踏んだからといって評価されるものでもない)、それを「クラス全員が受け入れてくれるはずだ」と思ってしまうことにも、クラクラする。
 なぜそんなにも周りが見えないのだろう?
 なぜそんなにもめんどくさいのだろう?
 ひとつひとつは取るに足らない小さなエピソードなのだが、それが少しずつ積み重なって、詩絵良を遠ざけたい気持ちは日に日に大きくなっていく。
 私は、詩絵良のことを好きになりたかった。せっかく姉妹になったのだから、仲良くしたい。そう思っているのに、詩絵良の痛さにイラっとしてしまい、いっこうに距離が縮まらない。好きになりたいのに好きになれなくて、もどかしかった。
 たぶん、ママも同じだったと思う。
 ママは良識ある女性なので、詩絵良を虐待するようなことはもちろんなかった。ママは、私にも詩絵良にも同じように接していた。表面上は。
 でも、ママが詩絵良のことを愛していないのは、子供心にもなんとなくわかった。ママも私と同じで、詩絵良のことを愛したいのに愛せなくて、もどかしいのだと思う。
 私とママは趣味嗜好が似ていて友達みたいに仲がいい。だから詩絵良と三人でいても、つい私とママだけで盛り上がってしまうことがある。それに気づくと、ママは慌てて詩絵良をフォローする。気を遣っているのだ。
 詩絵良の母親は、詩絵良を生んですぐに育児ノイローゼになって実家に帰ってしまったという。離婚したとき、詩絵良は母親に引き取られた。でも母親が心の病気になって育てられなくなり、お父さんが引き取ったのだそうだ。
 そういった事情があるから尚更、私もママも、詩絵良を愛してあげたいのだ。
 でも、せっかく話を振っても噛み合わない返しをされる。私が無口になると「杏音ちゃん、怒ってる?」と上目遣い。怒っていないと言えば「うそ、詩絵良のことなんて嫌いなんでしょ。詩絵良が悪い子だから……」と自分の世界に入ってしまう。そんな妹、どうやって愛せばいいのだ。
 詩絵良は、自分を悲劇のヒロインだと思っている。
 そして「実の母親には捨てられ、継母と義理の姉には疎外される可哀相な私」という設定をネタにして周りの気を引こうとする。
 その設定は、まるきりの嘘ではないけど、それだけが真実でもない。私もママも、詩絵良を意図的に疎外していないし、そもそも嫌いなわけではない。詩絵良にとって私は「いじわるなお姉さん」かもしれないが、私は意地悪な性格ではないと思う。もしも私が詩絵良に対してだけ意地悪だとしたら、そうさせる原因は詩絵良にもあるのだ。

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