小説

『白雪姫的恋の見つけ方』小高さりな(『白雪姫』)

26 years old.
 東京で今度は安定した職に就きたいと転職活動をし、小さい会社だけれど、事務職に決まった。元同僚に電話をかけ、久保さんが離婚したと聞いた。それから、結婚したとも。
 相手は会社の名前を知っているけれど、話したことはない事務の女性だったように思う。離婚が先なのか、恋が始まったのが先なのか、よく分からないが、里香が飛び込まなかった場所に彼女は飛び込んだ。里香は電話帳から久しく見ていなかった久保さんの名前を引っ張り出して、消した。電話帳を消したところで、自分がまっさらになるわけでないのは十分に知っている。
 ただ思ったよりも里香はショックを受けていなかった。里香は同じ職場の男性に恋をしていた。片思いだ。片思いがいちばんいい気がする。中学生の時も片思いをしていた。手を合わせてみたくて、移動教室の美術、隣の席になる。「手が大きいね」手を合わせる妄想を何度もした。妄想だけで幸福に浸られた。
 今の恋は、中学の時の初恋に近い気がする。なんとなく彼が好きなのだ。好きだから、よく見える。彼の声が、しぐさが、喋り方も、笑った時にすこし目尻によるしわも素敵に見える。
 好きだ、好きだという気持ちが膨らんで、彼に渡すあてのない、小さなプレゼントを買うようになった。それは彼が好きだと言ったお菓子だったり、飲み物だったり、何かのタイミングで渡せないだろうかと三番目の引き出しに増えていった。
 片思いは彼に恋人がいるのだと知って、あっという間に散った。ストックしたお菓子と飲み物を平らげた。
 代わりに、里香は合コンに明け暮れた。合コンでは、次々出会った多くの人と細い糸で、つながっている。刹那的で、満たされず、目に見えない靴底のように気持ちが明らかにすり減っていった。
 実りのない合コンに参加した帰り道は、喪失感が襲った。公務員、教師、商社マン、医者、いろんな職業の相手と出会った。
 合コンを繰り返すうちに、同性の合コン仲間と呼べる友人、悠子と知り合った。
 ある時、医者との合コンで社交辞令のように連絡先交換をした。のちの女子会で、悠子が気になるといった相手の連絡先を里香は知っていたので、連絡先を教えた。
 数カ月後、悠子とふたりで会わないかと誘いを受けた時、予感はしていた。悠子とくだんの男性が付き合い始めたのだった。幸せそうに恋のくすぐったさに受かれた悠子は、聞いてもいない成り行きを義務のように話し始めた。
「本当は里香に行こうと思っていたけど、わたしがぐいぐいくるから根負けしたって」
 これはノロケなのだと。ざわざわする心に無視を決め込んだ。これはただのつまらない嫉妬なのだと、わたしは深呼吸して息と共に全部吐きだした。

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